私共《わたくしども》仲間の者も天正助定《てんしょうすけさだ》であろうとの評判でございますが、惜《お》しい事には何分|無銘《むめい》にて残念でございます」
侍「御亭主やこれはどの位するな」
亭「へい、有難う存じます、お掛値《かけね》は申上げませんが、只今も申します通り銘さえございますれば多分の価値《ねうち》もございますが、無銘の所で金《きん》拾枚でございます」
侍「なに拾両とか、些《ちっ》と高いようだな、七枚半には負《まか》らんかえ」
亭「どう致しまして何分それでは損が参りましてへい、なか/\もちましてへい」
 と頻《しき》りに侍と亭主と刀の値段の掛引《かけひき》をいたして居りますと、背後《うしろ》の方《かた》で通り掛《かゝ》りの酔漢《よっぱらい》が、此の侍の中間《ちゅうげん》を捕《とら》えて、
「やい何をしやアがる」
 と云いながらひょろ/\と踉《よろ》けてハタと臀餅《しりもち》を搗《つ》き、漸《ようや》く起き上《あが》って額《ひたい》で睨《にら》み、いきなり拳骨《げんこつ》を振《ふる》い丁々《ちょう/\》と打たれて、中間は酒の科《とが》と堪忍《かんにん》して逆らわず、大地に手を突き首
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