、私《わたくし》には兄弟も親類もございませんゆえ、誰《たれ》あって育てる者もないところから、店受《たなうけ》の安兵衞《やすべえ》さんに引取られ、四歳《よッつ》の時から養育を受けまして、只今では叔父分となり、斯様《かよう》に御当家様へ御奉公に参りました、どうぞ何時《いつ》までもお目掛けられて下さいませ」
 と云いさしてハラ/\と落涙《らくるい》を致しますから、飯島平左衞門様も目をしばたゝき、
平[#「平」は底本では「孝」]「感心な奴だ、手前ぐらいな年頃には親の忌日《きにち》さえ知らずに暮らすものだに、親はと聞かれて涙を流すとは親孝行な奴じゃて、親父は此の頃亡くなったのか」
孝「へい、親父の亡くなりましたは私《わたくし》の四歳《よッつ》の時でございます」
平「それでは両親の顔も知るまいのう」
孝「へい、ちっとも存じませんが、私《わたくし》の十一歳の時に始めて店受《たなうけ》の叔父から母親《おふくろ》の事や親父の事も聞きました」
平「親父はどうして亡くなったか」
孝「へい、斬殺《きりころ》されて」
 と云いさしてわっとばかりに泣き沈む。
平「それは又|如何《いかゞ》の間違いで、とんでもない事
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