くあるべき事だろうと、君が萩原新三郎様の所にいる時分から、あの伴藏さんおみねさんの夫婦は、どうも機転の利《き》き方、才智の廻る所から、中々只の人ではない、今にあれはえらい人になると云っていたが、十指《じっし》の指さす処|鑑定《めがね》は違わず、実に君は大した表店《おもてだな》を張り、立派な事におなりなすったなア」
伴「いやこれは山本志丈さん、誠に思い掛けねえ所でお目にかゝりやした」
志「実は私も人には云えねえが江戸を喰い詰め、医者もしていられねえから、猫の額《ひたえ》のような家《うち》だが売って、其の金子を路用として日光辺の知己《しるべ》を頼って行《ゆ》く途中、幸手の宿屋で相宿《あいやど》の旅人《りょじん》が熱病で悩むとて療治を頼まれ、其の脉を取れば運よく全快したが、実は僕が治したんじゃアねえ、ひとりでに治ったんだが、運に叶《かな》って忽《たちま》ちにあれは名人だ名医だとの評が立ち、あっちこっちから療治を頼まれ、実はいゝ加減にやってはいるが、相応に薬礼をよこすから、足を留《と》めていたものゝ実は己ア医者は出来ねえのだ、尤《もっと》も傷寒論《しょうかんろん》の一冊位は読んだ事は有るが、一
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