っと嬢様にお目にかゝりたくって参りました」
 と云えば、お米はやがて嬢様を伴い来《きた》る。嬢様のお露様は恥かしげにお米の後《うしろ》に坐って、口の中《うち》にて
「志丈さん入《いら》っしゃいまし」
 と云ったぎりで、お米が此方《こちら》へ来れば此方へ来《きた》り、彼方《あちら》へ行《ゆ》けば彼方へ行き、始終女中の後《うしろ》にばかりくッついて居る。
志「存じながら御無沙汰に相成りまして、何時《いつ》も御無事で、此の人は僕の知己《ちかづき》にて萩原新三郎と申します独身者《ひとりもの》でございますが、お近づきの為《た》め一寸《ちょっと》お盃《さかづき》を頂戴いたさせましょう、おや何だかこれでは御婚礼の三々九度《さかづき》のようでございます」
 と少しも間断《たれま》なく取巻きますと、嬢様は恥かしいが又嬉しく、萩原新三郎を横目にじろ/\見ない振《ふり》をしながら見て居ります。と気があれば目も口ほどに物をいうと云う譬《たとえ》の通り、新三郎もお嬢様の艶容《やさすがた》に見惚《みと》れ、魂も天外に飛ぶ計《ばか》りです。そうこうする中《うち》に夕景になり、灯火《あかり》がちら/\点《つ》く時刻と
前へ 次へ
全308ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング