れていて、ありがたいわ、それですっかり分った」
久「それじゃア旦那は云わねえのかえ」
みね「当前《あたりまえ》サ、旦那が私に改まってそんな馬鹿な事をいう奴があるものかね」
久「アレヘエそれじゃアおらが困るべいじゃアねえか、旦那どんが己《お》れにわれえ喋《しゃべ》るなよと云うたに、困ったなア」
みね「ナニお前の名前は出さないから心配おしでないよ」
久「それじゃア私《わし》の名前《なめえ》を出しちゃアいかねえよ、大きに有難うござりました」
と久藏は立帰る。おみねは込上《こみあが》る悋気《りんき》を押え、夜延《よなべ》をして伴藏の帰りを待っていますと、
伴「文助《ぶんすけ》や明けてくれ」
文「お帰り遊ばせ」
伴「店の者も早く寝てしまいな、奥ももう寝たかえ」
といいながら奥へ通る。
伴「おみね、まだ寝ずか、もう夜なべはよしねえ、身体の毒だ、大概にして置きな、今夜は一杯飲んで、そうして寝よう、何か肴《さかな》は有合《ありあい》でいゝや」
みね「何もないわ」
伴「かくや[#「かくや」に傍点]でもこしらえて来てくんな」
みね「およしよ、お酒を宅《うち》で飲んだって旨くもない、肴はなし、酌をする者
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