》に坐っているのは例の美男《びなん》萩原新三郎にて、男ぶりといい人品《ひとがら》といい、花の顔《かんばせ》月の眉、女子《おなご》にして見まほしき優男《やさおとこ》だから、ゾッと身に染《し》み何《ど》うした風の吹廻《ふきまわ》しであんな綺麗な殿御《とのご》が此処《こゝ》へ来たのかと思うと、カッと逆上《のぼ》せて耳朶《みゝたぼ》が火の如くカッと真紅《まっか》になり、何《なん》となく間が悪くなりましたから、はたと障子をしめきり、裡《うち》へ入ったが、障子の内では男の顔が見られないから、又そっと障子を明けて庭の梅の花を眺める態《ふり》をしながら、ちょい/\と萩原の顔を見て又恥かしくなり、障子の内へ這入《はい》るかと思えば又出て来る、出たり引込《ひっこ》んだり引込んだり出たり、もじ/\しているのを志丈は見つけ、
志「萩原君、君を嬢様が先刻《さっき》から熟々《しけ/″\》と見ておりますよ、梅の花を見る態《ふり》をしていても、眼の球《たま》は全《まる》で此方《こちら》を見ているよ、今日は頓《とん》と君に蹴られたね」
 と言いながらお嬢様の方を見て
「アレ又|引込《ひっこ》んだ、アラ又出た、引込んだり
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