済んでください」
孝「至極|御尤《ごもっと》もなる仰せです、家内だけなれば違背《いはい》はございません」
相「御承知くだすったか、千万|忝《かたじ》けない、あゝ有難い、相川は貧乏なれども婚礼の入費の備えとして五六十両は掛ると見込んで、別にして置いたが、これはお前の餞別に上げるから持って行っておくれ」
孝「金子は主人から貰いましたのが百両ございますから、もう入りません」
相「アレサいくら有っても宜《よ》いのは金、殊に長旅のことなれば、邪魔でもあろうがそう云わずに持って行ってください、そこで私が細《こまか》い金を選《よ》って、襦袢《じゅばん》の中へ縫い込んで置く積りだから、肌身離さず身に著《つ》けて置きなさい、道中には胡麻の灰という奴があるから随分気をお付けなさい、それに此の矢立をさしてお出《い》で、又これなる一刀は予《か》ねて約束して置いた藤四郎吉光の太刀《たち》、重くもあろうが差してお呉れ、是と御主人のお形見天正助定を差して行《ゆ》けば、舅と主人がお前の後影《うしろかげ》に付添っているも同様、勇ましき働きをなさいまし」
孝「有りがとうございます」
相「何《ど》うか今夜|不束《ふつゝか》
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