さい」
孝「一旦お約束申した事ゆえ、婚礼を致しまして宜しいようなれど、主人よりのお約束申したは来年の二月、殊《こと》に目の前にて主人があの通りになられましたのに、只今婚礼を致しましては主人の位牌へ対して済みません、敵討の本懐を遂《と》げ立帰り、目出度《めでた》く婚礼を致しますれば、どうぞそれ迄お待ち下さるように願います」
相「それはお前の事だから、遠からず本懐を遂げて御帰宅になるだろうが、敵の行方《ゆくえ》が知れない時は、五年で帰るか十年でお帰りになるか、幾年掛るか知れず、それに私はもう取る年、明日《あす》をも知れぬ身の上なれば、此の悦びを見ぬ内帰らぬ旅に赴《おもむ》く事があっては冥途《よみじ》の障《さわ》り、殊に娘も煩う程お前を思っていたのだから、どうか家内だけで、盃事《さかずきごと》を済ませて置いて、安心させてくださいな、それにお前も飯島の家来では真鍮巻の木刀を差して行《ゆ》かなければならん、それより相川の養子となり、其の筋へ養子の届をして、一人前《ひとりまえ》の立派な侍に出立《いでた》って往来すれば、途中で人足などに馬鹿にもされず宜《よ》かろうから、何《ど》うぞ家内だけの祝言を聞
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