今お遺書《かきおき》の御様子にては、主人は私《わたくし》を急いで出し、後《あと》で客間へ踏込んで源次郎と闘うとの事ですが、如何《いか》に源次郎が剣術を知らないでも、殿様があんな深傷《ふかで》にてお立合なされては、彼が無残の刃の下に果敢《はか》なくお成りなされるは知れた事、みす/\敵《かたき》を目の前に置きながら、恩あり義理ある御主人を彼等に酷《むご》く討たせますは実に残念でござりますから、直《すぐ》に取って返し、お助太刀を致す所存でございます」
相「分らない事を云わっしゃるな、御主人様が是だけの遺書《かきおき》をお遣《つか》わしなさるは何の為《た》めだと思わッしゃる、そんな事をしなさると、飯島の家《いえ》が潰《つぶ》れるから、邸《やしき》へ行《ゆ》く事は明朝までお待ち、此の遺書の事を心得てこれを反故《ほご》にしてはならんぜ」
 と亀の甲より年の功、流石《さすが》老巧《ろうこう》の親身の意見に孝助はかえす言葉もありませんで、口惜《くやし》がり、唯《たゞ》身を震わして泣伏しました。話かわって飯島平左衞門は孝助を門外《もんそと》に出し、急ぎ血潮|滴《した》たる槍を杖とし、蟹のように成ってよう
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