方《どちら》へ」
志「今日は臥竜梅へ梅見に出かけましたが、梅見れば方図《ほうず》がないという譬《たとえ》の通り、未《ま》だ慊《あき》たらず、御庭中《ごていちゅう》の梅花《ばいか》を拝見いたしたく参りました」
米「それは宜《よ》く入らっしゃいました、まア何卒《どうぞ》此方《こちら》へお入《はい》りあそばせ」
 と庭の切戸《きりど》を開《ひら》きくれゝば、
「然《しか》らば御免」
 と庭口へ通ると、お米は如才《じょさい》なく、
米「まア一服召上りませ、今日は能《よ》く入らっしゃって下さいました、平常《ふだん》は私《わたくし》と嬢様ばかりですから、淋《さむ》しくって困って居《い》るところ、誠に有難うございます」
志「結構なお住いでげすな……さて萩原氏、今日君のお名吟《めいぎん》は恐れ入りましたな、何《なん》とか申したな、えゝと「煙草には燧火《すりび》のむまし梅の中《なか》」とは感服々々、僕などのような横着者《おうちゃくもの》は出る句も矢張り横着で「梅ほめて紛《まぎ》らかしけり門違《かどちが》い」かね、君のような書見《しょけん》ばかりして鬱々《うつ/\》としてはいけませんよ、先刻《さっき》の残
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