若《じじゃく》としてござるは感心な者だな」
亭「いえナニお誉《ほ》めで恐入ります、先程から早腰《はやごし》が抜けて立てないので」
侍「硯箱はお前の側《わき》にあるじゃアないか」
 と云われてよう/\心付き、硯箱を彼《か》の侍の前に差出すと、侍は硯箱の蓋《ふた》を推開《おしひら》きて筆を取り、すら/\と名前を飯島平太郎《いいじまへいたろう》と書きおわり、自身番に届け置き、牛込のお邸《やしき》へお帰りに成りまして、此の始末を、御親父《ごしんぷ》飯島|平左衞門《へいざえもん》様にお話を申上《もうしあ》げましたれば、平左衞門様は宜《よ》く斬ったと仰《おお》せありて、それから直《すぐ》にお頭《かしら》たる小林權太夫《こばやしごんだゆう》殿へお届けに及びましたが、させるお咎《とが》めもなく切り徳《どく》切られ損《ぞん》となりました。

        二

 さて飯島平太郎様は、お年二十二の時に悪者《わるもの》を斬殺《きりころ》して毫《ちっと》も動ぜぬ剛気の胆力《たんりょく》でございましたれば、お年を取るに随《したが》い、益々《ます/\》智慧《ちえ》が進みましたが、その後《のち》御親父《ごしんぷ》
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