を、若侍は得たりと踏込みざま、えイと一声《ひとこえ》肩先を深くプッツリと切込む、斬られて孝藏はアッと叫び片膝を突く処をのしかゝり、エイと左の肩より胸元へ切付《きりつ》けましたから、斜《はす》に三つに切られて何だか亀井戸《かめいど》の葛餅《くずもち》のように成ってしまいました。若侍は直《すぐ》と立派に止《とゞ》めを刺して、血刀《ちがたな》を振《ふる》いながら藤新の店頭《みせさき》へ立帰《たちかえ》りましたが、本《もと》より斬殺《きりころ》す料簡でございましたから、些《ちっ》とも動ずる気色もなく、我が下郎に向い、
侍「これ藤助、その天水桶《てんすいおけ》の水を此の刀にかけろ」
 と言いつければ、最前《さいぜん》より慄《ふる》えて居りました藤助は、
藤「へいとんでもない事になりました、若《も》し此の事から大殿様のお名前でも出ますようの事がございましては相済みません、元は皆《みん》な私《わたくし》から始まった事、どう致して宜《よろ》しゅうございましょう」
 と半分は死人の顔。
侍「いや左様《さよう》に心配するには及ばぬ、市中を騒がす乱暴人、切捨《きりす》てゝも苦しくない奴だ、心配するな」
 と
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