ねいやア」
みね「大層なことをお云いでないよ、私が考え付いた事で、幽霊から百両の金を貰ったのじゃないか」
伴「こら/\静《しずか》にしねえ」
みね「云ったっていゝよ、それから其の金で取りついて斯う成ったのじゃアないかそればかりじゃアねえ、萩原様を殺して海音如来のお像を盗み取って、清水の花壇の中へ埋めて置いたじゃアないか」
伴「静にしねえ、本当に気違《きちげ》えだなア、人の耳へでも入ったら何《ど》うする」
みね「私ゃア縛られて首を切られてもいゝよ、そうするとお前も其の儘《まゝ》じゃア置かないよ、百両おくれ、私ゃア別に成りましょう」
伴「仕様が無《ね》えな、己が悪かった、堪忍してくれ、そんなら是迄お前《めえ》と一緒になってはいたが、おれに愛想《あいそう》が尽きたなら此の宅《うち》はすっかりとお前にやってしまわア、と云うと、なにか己があの女でも一緒に連れて何処《どこ》かへ逃げでもすると思うだろうが、段々様子を聞けば、あの女は何か筋の悪い女だそうだから、もう好加減《いゝかげん》に切りあげる積り、それともこゝの家《うち》を二百両にでも三百両にでもたゝき売って仕舞って、お前を一緒に連れて越後の新潟あたりへ身を隠し、もう一と花咲かせ巨《でっ》かくやりてえと思うんだが、お前|最《も》う一度|跣足《はだし》になって苦労をしてくれる気はねえか」
みね「私だって無理に別れたいと云う訳でもなんでもありませんが、今に成ってお前が私を邪慳《じゃけん》にするものだから、そうは云ったものゝ、八年|以来《このかた》連添っていたものだから、お前が見捨てないと云う事なら、何処《どこ》までも一緒に行こうじゃアないか」
伴「そんなら何も腹を立てる事はねえのだ、これから中直《なかなお》りに一|杯《ぺい》飲んで、両人《ふたり》で一緒に寝よう」
 と云いながらおみねの手首を取って引寄せる。
みね「およしよ、いやだよウ」
 川柳《せんりゅう》に「女房の角を□□□でたゝき折り」で忽《たちま》ち中も直りました。それから翌日は伴藏がおみねに好きな衣類《きもの》を買って遣《や》るからというので、幸手へまいり、呉服屋で反物《たんもの》を買い、こゝの料理屋でも一杯やって両人《ふたり》連れ立ち、もう帰ろうと幸手を出て土手へさしかゝると、伴藏が土手の下へ降りに掛るから、
みね「旦那、どこへ行《ゆ》くの」
伴「実は江戸へ仕入《しいれ》に行った時に、あの海音如来の金無垢《きんむく》のお守を持って来て、此処《こゝ》へ埋めて置いたのだから、掘出《ほりだ》そうと思って来たんだ」
みね「あらまアお前はそれまで隠して私に云わないのだよ、そんなら早く人の目つまにかゝらないうちに掘ってお仕舞いよ」
伴「これは掘出して明日《あした》古河《こが》の旦那に売るんだ、何《なん》だか雨がポツ/\降って来たようだな、向うの渡し口の所からなんだか人が二人ばかり段々こっちの方へ来るような塩梅《あんべい》だから、見ていてくんねえ」
みね「誰も来《き》やアしないよ、どこへさ」
伴「向うの方へ気を付けろ」
 という。向うは往来《おうらい》が三叉《みつまた》になっておりまして、側《かた》えは新利根《しんとね》大利根《おおとね》の流《ながれ》にて、折《おり》しも空はどんよりと雨もよう、幽《かす》かに見ゆる田舎家《いなかや》の盆灯籠《ぼんどうろう》の火もはや消えなんとし、往来《ゆきゝ》も途絶《とだ》えて物凄《ものすご》く、おみねは何心《なにごゝろ》なく向うの方へ目をつけている油断を窺《うかゞ》い、伴藏は腰に差したる胴金造《どうかねづく》りの脇差を音のせぬように引《ひっ》こ抜き、物をも云わず背後《うしろ》から一生懸命力を入れて、おみねの肩先目がけて切り込めば、キャッとおみねは倒れながら伴藏の裾《すそ》にしがみ付き、
みね「それじゃアお前は私を殺して、お國を女房に持つ気だね」
伴「知れた事よ、惚れた女を女房に持つのだ、観念しろ」
 と云いさま、刀を逆手《さかて》に持直し、貝殻骨《かいがらぼね》のあたりから乳の下へかけ、したゝかに突込《つきこ》んだれば、おみねは七顛八倒の苦しみをなし、おのれ其の儘《まゝ》にして置こうかと、又も裾へしがみつく。伴藏は乗掛《のしかゝ》って止《とゞ》めを刺したから、おみねは息が絶えましたが、何《ど》うしてもしがみついた手を放しませんから、脇差にて一本々々指を切り落し、漸《ようや》く刀を拭《ぬぐ》い、鞘《さや》に納め、跡をも見ず飛ぶが如くに我家《わがや》に立帰り、慌《あわたゞ》しく拳《こぶし》をあげて門《かど》の戸を打叩《うちたゝ》き、
伴「文助、一寸《ちょっと》こゝを明けてくれ」
文「旦那でございますか、へいお帰り遊ばせ」
 と表の戸を開く。伴藏ズッと中《うち》に入り、
伴「文助や、大変だ、今土手で五人の追剥《おい
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