ちっ》とも目出たい事も何《なん》にもない。何《ど》うして金が出たであろうと不審が晴れないで居りますと、
飯「女どもを皆《みんな》こゝへ呼んでくれ」
國「お竹どん、おきみどん皆《みんな》こゝへお出《い》で」
竹「只今承わりますればお金が出ましたそうでおめでとう存じます」
君「殿様誠におめでとうございます」
飯「孝助も源助もこゝへ呼んで来い」
女「孝助どん源助どん、殿様がめしますよ」
源「へい/\、これ孝助お詫事《わびごと》を願いな、お前は全く取らないようだが、お前の文庫の中から胴巻が出たのがお前があやまり、詫ごとをしなよ」
孝「いゝよ、いよ/\お手打になるときは、殿様の前で私《わたくし》が列《なら》べ立てる事がある、それを聞くとお前は嘸《さぞ》悦ぶだろう」
源「なに嬉しい事があるものか、殿様が召すからマア行こう」
 と両人|連立《つれだ》ってまいりますと、
飯「孝助、源助、此方《こっち》へ来てくれ」
源「殿様、只今部屋へ往って段々孝助へ説得を致しましたが、どうも全く孝助は盗《と》らないようにございます、お腹立《はらだち》の段は重々|御尤《ごもっとも》でござりますが、お手打の儀は何卒《なにとぞ》廿三|日《ち》までお日延《ひのべ》の程を願いとう存じます」
飯「まアいゝ、孝助これへ来てくれ」
孝「はいお庭でお手打になりますか、※[#「蓙」の左の「人」に代えて「口」、125−11]《ござ》をこれへ敷きましょうか、血が滴《た》れますから」
飯「縁側へ上がれ」
孝「へい、これはお縁側でお手打、これは有がたい、勿体《もったい》ない事で」
飯「そう云っちゃア困るよ、さて源助孝助、誠に相済まん事であったが、百両の金は実は己《おれ》が仕舞処《しまいどころ》を違えて置いたのが、用箪笥《ようだんす》から出たから喜んでくれ、家来だからあんなに疑《うたぐ》ってもよいが、外《ほか》の者でもあっては己が言訳《いいわけ》のしようもない位な訳で、誠に申しわけがない」
孝「お金が出ましたか、さようなれば私《わたくし》は盗賊《どろぼう》ではなく、お疑《うたぐ》りは晴れましたか」
飯「そうよ、疑りはすっぱり晴れた、己が間違いであったのだ」
孝「えゝ有がとうござります、私《わたくし》は素《もと》よりお手打になるのは厭《いと》いませんけれども、只《たゞ》全く私が取りませんのを取ったかと思われまするのが冥路《よみじ》の障《さわ》りでございましたが、御疑念が晴れましたならお手打は厭いません、サヽお手打になされまし」
飯「己が悪かった、これが家来だからいゝが、若《も》し朋友《ほうゆう》か何かであった日にゃア腹を切っても済まない所、家来だからといって、無闇に疑《うたぐ》りを掛けては済まない、飯島が板の間へ手を突いてこと/″\く詫びる、堪忍して呉れ」
孝「あゝ勿体ない、誠に嬉しゅうございました、源助どん」
源「誠にどうも」
飯「源助、手前は孝助を疑《うたぐ》って孝助を突いたから謝《あや》まれ」
源「へい/\孝助どん、誠に済みません」
飯「たけや何かも何か少し孝助を疑ったろう」
竹「ナニ疑りは致しませんが、孝助どんは平常《ふだん》の気性にも似合ないことだと存じまして、些《ちっ》とばかり」
飯「矢張り疑ったのだから謝まれ、きみも謝まれ」
竹「孝助どん、誠にお目出度《めでとう》存じます、先程は誠に済みません」
飯「これ國、貴様は一番孝助を疑り、膝を突いたり何かしたから余計に謝まれ、己でさえ手をついて謝ったではないか、貴様は猶更《なおさら》丁寧に詫をしろ」
 と云われてお國は、此度《こんど》こそ孝助がお手打になる事と思い、心の中《うち》で仕済ましたりと思っている処《ところ》へ、金子が出て、孝助に謝まれと云うから残念で堪《たま》らないけれども、仕方がないから、
國「孝助どん誠に重々すまない事を致しました、何《ど》うか勘弁しておくんなさいましよ」
孝「なに宜《よろ》しゅうございます、お金が出たから宜《い》いが、若《も》しお手打にでもなるなら、殿様の前でお為になる事を並べ立《たて》て死のうと思って……」
 と急込《せきこ》んで云いかけるを、飯島は、
飯「孝助何も云って呉れるな己にめんじて何事もいうな」
孝「恐れ入ります、金子は出ましたが、彼《あ》の胴巻は何《ど》うして私《わたくし》の文庫から出ましたろう」
飯「あれはホラいつか貴様が胴巻の古いのを一つ欲しいと云った事があったっけノウ、其の時おれが古いのを一つやったじゃないか」
孝「ナニさような事は」
飯「貴様がそれ欲しいと云ったじゃないか」
孝「草履取の身の上で縮緬《ちりめん》のお胴巻を戴いたとて仕方がございません」
飯「此奴《こいつ》物覚えの悪いやつだ」
孝「私《わたくし》より殿様は百両のお金を仕舞い忘れる位ですから貴方《あなた》の方が物覚えがわ
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