すから、内々の者を一《ひ》ト通り詮議をいたします、……アノお竹どん、おきみどん、皆《みんな》此方《こちら》へ来ておくれ」
竹「とんだ事でございました」
きみ「私《わたくし》はお居間などにはお掃除の外《ほか》参った事はございませんが、嘸《さぞ》御心配な事でございましょう、私なぞは昨晩の事はさっぱり存じませんでございます、誠に驚き入りました」
飯「手前達を疑ぐる訳ではないが、おれが留守で、國が預り中の事ゆえ心配をいたしているものだから」
 女中は
「恐れ入ります、どうぞお検《あらた》め下さいまし」
 と銘々《めい/\》葛籠《つゞら》を縁側へ出す。
飯「たけの文庫には何《ど》ういう物が入っているか見たいナ成程たまか[#「たまか」に傍点]な女だ、一昨年《おとゝし》遣《つか》わした手拭《てぬぐい》がチャンとしてあるな、女という者は小切《こぎれ》の端でもチャンと畳紙《たとう》へいれて置く位でなければいかん、おきみや、手前の文庫を一ツ見てやるから此処《こゝ》へ出せ」
君「私《わたくし》のは何《ど》うぞ御免あそばして、殿様が直《じか》に御覧あそばさないで下さい」
飯「そうはいかん、竹のを検《あらた》めて手前のばかり見ずにいては怨《うら》みッこになる」
君「どうぞ御勘弁恐れ入ります」
飯「何も隠す事はない、成程、ハヽア大層|枕草紙《まくらぞうし》をためたな」
君「恐れ入ります、貯《た》めたのではございません、親類|内《うち》から到来をいたしたので」
飯「言訳《いいわけ》をするな、着物が殖《ふえ》ると云うから宜《い》いわ」
國「アノ男部屋の孝助と源助の文庫を検《あらた》めて見とうございます、お竹どん一寸《ちょっと》二人を呼んでおくれ」
竹「孝助どん、源助どん、殿様のお召《めし》でございますよ」
源「へい/\お竹どんなんだえ」
竹「お金が百両|紛失《ふんじつ》して、内々《うち/\》の者へお疑いがかゝり、今お調べの所だよ」
源「何処《どこ》から這入《はい》ったろう、何しろ大変な事だ、何しろ行って見よう」
 と両人飯島の前へ出て来て、
源「承わり恟《びっく》り致しました、百両の金子《きんす》が御紛失《ごふんじつ》になりましたそうでございますが、孝助と私《わたくし》と御門を堅く守って居りましたに、何《ど》ういう事でございましょう、嘸《さぞ》御心配な事で」
飯「なに國が預り中で、大層心配をするから一寸《ちょっと》検《あらた》めるのだ」
國「孝助どん、源助どん、お気の毒だがお前方二人は何《ど》うも疑《うたぐ》られますよ、葛籠《つゞら》をこゝへ持ってお出《い》で」
源「お検《あらた》めを願います」
國「これ切《ぎ》りかえ」
源「一|切合切《さいがっさい》一世帯《ひとしょたい》是切《これぎ》りでございます」
國「おや/\まア、着物を袖畳《そでだゝ》みにして入れて置くものではないよ、ちゃんと畳んでお置きな、これは何《なん》だえ、ナニ寝衣《ねまき》だとえ、相変らず無性《ぶしょう》をして丸めて置いて穢《きた》ないねえ、此の紐《ひも》は何だえ、虱紐《しらみひも》だとえ、穢《きたな》いねえ、孝助どんお前のをお出し、此の文庫切りか」
 と是から段々ひろちゃく[#「ひろちゃく」に傍点]いたしましたが、元より入れて置いた胴巻ゆえ有るに違いない。お國はこれ見よがしに団扇《うちわ》の柄《え》に引掛《ひっか》けて、すッと差上げ、
國「おい孝助どん此の胴巻は何《ど》うしてお前の文庫の中に入っていたのだ」
孝「おや/\/\、さっぱり存じません、何う致したのでしょう」
國「おとぼけでないよ、百両のお金が此の胴巻ぐるみ紛失《ふんじつ》したから、御神鬮《おみくじ》の占《うらない》のと心配をしているのです、是が失《な》くなっては何うも私が殿様に済まないからお金を返しておくれよ」
孝「私《わたくし》は取った覚えはありません、どんな事が有っても覚えはありません、へい/\何ういう訳で此の胴巻が入っていたか存じません、へえ」
國「源助どん、お前は一番古く此のお屋敷にいるし、年かさも多い事だから、これは孝助どんばかりの仕業《しわざ》ではなかろう、お前と二人で心を合せてした事に違いない、源助どんお前から先へ白状しておしまい」
源「これは、私《わたくし》はどうも、これ孝助々々、どうしたんだ、己《おれ》が迷惑を受けるだろうじゃないか、私は此のお屋敷に八ヶ年も御奉公をして、殿様から正直と云われているのに年嵩《としかさ》だものだから御疑念《ごぎねん》を受ける、孝助どうしたか云わねえか」
孝「私《わたくし》は覚えはないよ」
源「覚えはないといったって、胴巻の出たのは何《ど》うしたのだ」
孝「何うして出たか私《わたくし》ゃ知らないよ、胴巻は自然《ひとりで》に出て来たのだもの」
國「自然《ひとりで》に出たと云ってすむかえ
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