たら討とうと思っていますから、孝助は進めば鉄砲で討たれる、退《しりぞ》けば源次郎がいて進退|此《こゝ》に谷《きわま》りて、一生懸命に成ったから、額と総身《そうしん》から油汗が出ます。此の時孝助が図らず胸に浮んだのは、予《かね》て良石和尚も云われたが、退《ひ》くに利あらず進むに利あり、仮令《たとえ》火の中水の中でも突切《つッきっ》て往《ゆ》かなければ本望《ほんもう》を遂げる事は出来ない、憶《おく》して後《あと》へ下《さが》る時は討たれると云うのは此の時なり、仮令一発二発の鉄砲|丸《だま》に当っても何程の事あるべき、踏込んで敵《かたき》を討たずに置くべきやと、ふいに切込み、卑怯だと云いながら喧嘩龜藏の腕を切り落しました。龜藏は孝助が鉄砲に恐れて後《あと》へ下《さが》るように、わざと鼻の先へ出していた所へ、ふいに切込まれたのだから、アッと云って後《あと》へ下《さが》ったが間に合わない、手を切って落すと鉄砲もドッサリと切落して仕舞いました。昔から随分腕の利《き》いた者は瓶《かめ》を切り、妙珍鍛《みょうちんきたえ》の兜《かぶと》を割《き》った例《ためし》もありますが、孝助はそれほど腕が利いておりませんが、鉄砲を切り落せる訳で、あの辺は芋畑が沢山あるから、其の芋茎《ずいき》へ火縄を巻き付けて、それを持って追剥《おいはぎ》がよく旅人《りょじん》を威《おど》して金を取るという事を、予《かね》て龜藏が聞いて知ってるから、そいつを持って孝助を威かした。芋茎だから誰にでも切れます。是《こ》れなら圓朝にでも切れます。龜藏が
「アッ」
と云って倒れたから、相助は驚いて逃出す所を、後ろから切掛《きりかけ》るのを見て、お國は
「アレ人殺し」
と云いながら鉄砲を放り出して雑木山へ逃げ込んだが、木の中だから帯が木の枝に纒《から》まってよろける所を一刀《ひとたち》あびせると、
「アッ」
と云って倒れる。源次郎は此の有様を見て、おのれお國を斬った憎い奴と孝助を斬ろうとしたが、雑木山で木が邪魔に成って斬れない所を、孝助は後《うしろ》から来る奴があると思って、いきなり振返りながら源次郎の肋《あばら》へ掛けて斬りましたが、殺しませんでお國と源次郎の髻《もとどり》を取って栗の根株に突き付けまして、
孝「やい悪人わりゃア恩義を忘却して、昨年七月廿一日に主人飯島平左衞門の留守を窺《うかゞ》い、奥庭へ忍び込んで
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