まごゝろ》、流石《さすが》の二人も面目《めんぼく》なく眼と眼を見合せ、
國「はい/\誠にどうも、左様とは存じませんでお隠し申したのは済みません」
源「実に御信実《ごしんじつ》なお言葉、恐れ入りました、拙者も飯島を殺す気ではござらんが、不義が顕《あら》われ平左衞門が手槍にて突いてかゝる故、止むを得ず斯《かく》の如きの仕合《しあわせ》でございます、仰せに従い早々逃げのび、改心致して再びお礼に参りまするでございます、これお國や、お餞別として路銀まで、あだに心得ては済みませんよ」
國「お母様《はゝさま》、どうぞ堪忍してくださいましよ」
母「さア/\早く行《ゆ》かぬか、かれこれ最早《もは》や九ツになります」
と云われて二人は支度をしていると、後《うしろ》の障子を開けて這入りましたはお國の兄五郎三郎にて、突然《いきなり》お國の側へより、
五「お母様少しお待ちなすってください、これ國これへ出ろ/\、本当にマア呆れはてゝ物が云われねえ奴だ、内へ尋ねて来た時なんと云った、お隣の次男と不義をしたゆえ、源さんは御勘当になり、身の置所がないようにしたも私ゆえ、お気の毒でならねえから一緒に連れて来ましたなどと、生嘘《なまぞら》を遣《つか》って我をだましたな、内に斯《こ》うやって置く奴じゃアねえぞ、お父様《とっさま》が御死去《ごしきょ》に成った時、幾度《いくたび》手紙を出しても一通の返事も遣《よこ》さぬくらいな人でなし、只《たった》一人の妹《いもと》だが死んだと思ってな諦めていたのだ、それにのめ/\と尋ねて来やアがって、置いてくれろというから、よもや人を殺し、泥坊をして来たとは思わねえから置いてやれば、今聞けば実に呆れて物が云われねえ奴だ、お母様《はゝさま》誠に有り難うございまするが、あなたが親父へ義理を立てゝ、此奴等《こいつ》を逃がして下さいましても天命は遁《のが》れられませんから、迚《とて》も助かる気遣《きづか》いはございません、いっそ黙っておいでなすって、孝助様に切られてしまう方が宜しゅうございますのに、やいお國、お母様《かゝさま》は義理堅いお方ゆえ、親父の位牌へ対して路銀まで下すって、そのうえ逃路《にげみち》まで教えて下さると云うはな実に有り難い事ではないか、何《なん》とも申そう様《よう》はございません、コレお國、この罰当《ばちあた》りめえ、お母様《かゝさま》が此の家へ嫁にいらッしゃ
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