げておいでだろうがな」
と云われて二人は顔色変え、
國「おやまア恟《びっく》りします、お母様《かゝさま》何をおっしゃいます、誰が其の様な事を云いましたか、少しも身に覚えのない事を云いかけられ、本当に恟り致しますわ」
母「いえ/\いくら隠してもいけないよ、私の方にはちゃんと証拠がある事だから、隠さずに云っておしまい」
國「そんな事を誰が申しましたろうねえ源さま」
と云えば、源次郎|落着《おちつき》ながら、
源「誠に怪《け》しからん事です。お母様もし外《ほか》の事とは違います、手前も宮野邊源次郎、何ゆえお隣の伯父を殺し、有金|衣類《いるい》を盗みしなどゝ何者がさような事を申しました、毛頭覚えはございません」
母「いや/\そうおっしゃいますが、私は江戸へ参り、不思議と久し振りで逢いました者が有って、其の者から承わりました」
源「フウ、シテ何者でございますか」
母「はい、飯島様のお屋敷でお草履取を勤めて居りました、孝助と申す者でなア」
源「ムヽ孝助、彼奴《あいつ》は不届至極な奴で」
國「アラ彼奴はマア憎い奴で、御主人様のお金を百両盗みました位の者ですから、どんな拵《こしら》え事をしたか知れません、あんな者の云う事をあなた取上げてはいけません、何《ど》うして草履取が奥の事を知っている訳はございません」
母「いえ/\お國や、その孝助は私の為には実の忰《せがれ》でございます」
と云われて両人《ふたり》は驚き顔して、後《あと》へもじ/\とさがり、
母「さア、私が此の家《や》へ縁付いて来たのは、今年で丁度十七年前の事、元私の良人《つれあい》は小出様の御家来で、お馬廻り役を勤め、百五十石頂戴致した黒川孝藏と云う者でありましたが、乱酒《らんしゅ》故に屋敷は追放、本郷丸山の本妙寺《ほんみょうじ》長屋へ浪人していました処、私《わたくし》の兄澤田右衞門が物堅い気質で、左様な酒癖《さけくせ》あしき者に連添うているよりは、離縁を取って国へ帰れと押《おし》て迫られ、兄の云うに是非もなく、其の時四つになる忰を後《あと》に残し、離縁を取って越後の村上へ引込《ひきこ》み、二年程過ぎて此の家に再縁して参りましたが、此の度《たび》江戸で図らずも十九年ぶりにて忰の孝助に逢いましたが、実の親子でありますゆえ、段々様子を聞いて見ると、お前達は飯島様を殺した上、有金大小衣類まで盗み取り、お屋敷を逐電したと聞き、
前へ
次へ
全154ページ中142ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング