分らぬ位でありまするから、一緒に居りましても互いに知らずに居りましたかな」
白「いや/\何でも逢って居ます」
孝「少《ちい》さい時分に別れましたから、事に寄ったら往来で摩《す》れ違った事もございましょうが、逢った事はございません」
白「いや/\そうじゃない、慥《たし》かに逢っている」
孝「それは少さい時分の事|故《ゆえ》」
白「あゝ煩《うる》さい、いや逢っていると云うのに、外《ほか》には何も云う事はない、人相に出ているから仕方がない、屹度《きっと》逢っている」
孝「それは間違いでございましょう」
白「間違いではない、極《き》めた所を云ったのだ、それより外に見る所はない、昼寝をするんだから帰っておくれ」
 とそっけなく云われ、孝助は後《あと》を細かく聞きたいからもじ/\していると、また門口より入《い》り来るは女連れの二人にて、
女「はい御免下さいませ」
白「あゝ又来たか、昼寝が出来ねえ、おゝ二人か何一人は供だと、そんなら其処《そこ》に待たして此方《こっち》へお上り」
女「はい御免くだされませ、先生のお名を承わりまして参りました、どうか当用《とうよう》の身の上を御覧を願います」
白「はい此方《こっち》へお出《い》で」
 と又此の女の相をよく/\見て、
「これは悪い相だなア、お前はいくつだえ」
女「はい四十四歳でございます」
白「これはいかん、もう見るがものはない、ひどい相だ、一体お前は目の下に極《ごく》縁のない相だ、それに近々《きん/\》の内|屹度《きっと》死ぬよ、死ぬのだから外に何《なん》にも見る事はない」
 と云われて驚き暫《しばら》く思案を致しまして、
女「命数は限りのあるもので、長い短かいは致し方がございませんが、私《わたくし》は一人尋ねるものがございますが、其の者に逢われないで死にます事でございましょうか」
白「フウム是は逢っている訳だ」
女「いえ逢いません、尤《もっと》も幼年の折に別れましたから、先でも私《わたくし》の顔を知らず、私も忘れたくらいな事で、すれ違ったくらいでは知れません」
白「何《なん》でも逢っています、もうそれで外に見る所も何《なに》もない」
女「其の者は男の子で、四つの時に別れた者でございますが」
 という側から、孝助は若《も》しやそれかと彼《か》の女の側に膝をすりよせ、
孝「もし、お内室様《かみさん》へ少々伺いますが、何《いず》れの方かは
前へ 次へ
全154ページ中132ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング