、マアよく似ておる事を、御覧よ」
孝「へい誠に不思議な事で、主人平左衞門様が遺言に、其の方養子となりて、若《も》し子供が出来たなら、男女《なんにょ》に拘《かゝわ》らず其の子を以《もっ》て家督と致し家の再興を頼むと御遺言書にありましたが、事によると殿様の生れ変《がわ》りかも知れません」
相「おゝ至極左様かも知れん、娘も子供が出来てからねえ、嬉し紛れにお父様私は旦那様の事はお案じ申しまするが、此の子が出来ましてから誠によく旦那様に似ておりますから、少しは紛れて、旦那様と一つ所におるように思われますというたから、私が又|余《あんま》り酷《ひど》く抱締めて、坊の腕でも折るといけないなんぞと、馬鹿を云っている位な事で、善藏や」
善「へい/\」
相「善藏や」
善「参っています、何《なん》でございます」
相「何だ、お前も板橋まで若旦那を送って行ったッけな」
善「へい参りました、これは若旦那様誠に御機嫌よろしゅう、あの折は実にお別れが惜しくて、泣きながら戻って参りましたが、よくマアお健かでいらっしゃいます」
孝「あの折は大きにお世話様であったのう」
相「それは兎も角も肝腎の仇《あだ》の手掛りが知れましたか」
孝「まだ仇には廻《めぐ》り逢いませんが、主人の法事をしたく一先ず江戸表へ立帰りましたが、法事を致しまして直《すぐ》に又出立致します」
相「フウ成程、明日《あす》法事に行《ゆ》くのだねえ」
孝「左ようでございます、お父様と私《わたくし》と参りまする積りでございます、それに良石和尚の智識なる事は予《かね》て聞き及んではいましたが、応験解道《おうけんげどう》窮《きわま》りなく、百年先の事を見抜くという程だと承わっておりまするが、今日和尚の云う言葉に其の方は水道端へ参るだろう、参る時は必ず待っている者があり、且《かつ》慶《よろこ》び事があると申しましたが、私の考えは、斯《か》く子供の出来た事まで良石和尚は知っておるに違い有りません」
相「はてねえ、そんな所まで見抜きましたかえ、智識なぞという者は趺跏量見智《ふかりょうけんち》で[#「趺跏量見智《ふかりょうけんち》で」は底本では「跌跏量見智《ふかりょうけんち》で」]、あの和尚は谷中の何とか云う智識の弟子と成り、禅学を打破ったと云う事を承わりおるが、えらいものだねえ、善藏や、大急ぎで水道町の花屋へ行って、おめでたいのだから、何かお頭付《かし
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