口から、
孝「御免下さいまし、只今帰りましたよ、これ/\善藏どん/\」
善「なんだよ、掃除屋が来たのかえ」
孝「ナニ私だよ」
善「おやこれはどうも、誠に失礼を申上げました、いつも今時分掃除屋が参りまするものですから、粗相を申しましたが、よくマア早くお帰りになりました、旦那様々々孝助様がお帰りになりました」
相「なに孝助殿が帰られたとか、何処《どこ》にお出《い》でになる」
善「へい、お台所にいらっしゃいます」
相「どれ/\、これはマア、何《な》んで台所などから来るのだ、そう云えば水は汲んで廻すものを、善藏コレ善藏何をぐる/\廻って居《お》るのだ、コレ婆《ばゞ》ア孝助どのがお帰りだよ」
婆「若旦那がお帰りでございますか、これはマア嘸《さぞ》お疲れでございますだろう、先《ま》ず御機嫌宜しゅう」
孝「お父様《とっさま》にも御機嫌宜しゅう、私《わたくし》も都度々々《つど/\》書面を差上げたき心得ではございまするが、何分旅先の事ゆえ思うようにはお便《たよ》りも致し難《がた》く、お父様は何うなされたかと日々お案じ申しまするのみでございましたが、先ずはお健《すこや》かなる御顔《おんかお》を拝しまして誠に大悦《たいえつ》に存じまする」
相「誠にお前も目出たく御帰宅なされ、新五兵衞至極満足いたしました、はい実にねえ烏《からす》の鳴かぬ日はあるがと云う譬《たとえ》の通りで、お前のことは少しも忘れたことはない、雪の降る日は今日あたりはどんな山を越すか、風の吹く日はどんな野原を通るかと、雨につけ風につけお前の事ばかり少しも忘れた事はござらん、ところへ思いがけなくお帰りになり、誠に喜ばしく思いまする、娘もお前のことばかり案じ暮らし、お前の立った当座は只《た》だ泣いてばかりおりましたから私がそんなにくよ/\して煩《わずら》いでもしてはいかないから、気を取り直せよといい聞かせて置きましたが、お前もマア健かでお早くお帰りだ」
孝「私《わたくし》は今日江戸へ着き、すぐに谷中の幡随院へ参詣《さんけい》をいたして来ましたが、明日《あした》は丁度主人の一周忌の年囘にあたりまするゆえ、法事供養をいたしたく立帰りました」
相「そうか、如何《いか》にも明日《あした》は飯島様の年囘に当るからと思ったが、お前がお留守だから私でも代参に行《ゆ》こうかと話をしていたのだこれ婆ア、こゝへ来な、孝助様がお帰りになった」
婆「
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