亦《また》おみねを連れ、百両の金を掴《つか》んで此の土地へ引込《ひっこ》んで今の身の上、ところが己が他《わき》の女に掛り合った所から、嚊《かゝ》アが悋気《りんき》を起し、以前の悪事をがア/\と呶鳴《どな》り立てられ仕方なく、旨く賺《だま》して土手下へ連出して、己が手に掛け殺して置いて、追剥に殺されたと空涙で人を騙《だま》かし、弔《とむら》いをも済《すま》して仕舞った訳なんだ」
志「よく云った、誠に感服、大概の者ならそう打明けては云えぬものだに、己が殺したと速《すみやか》に云うなどは是は悪党アヽ悪党、お前にそう打明けられて見れば、私はお喋りな人間だが、こればッかりは口外はしないよ、其の代り少し好《この》みがあるが何《ど》うか叶えておくれ、と云うと何か君の身代でも当てにするようだが、そんな訳ではない」
伴「あゝ/\それはいゝとも、どんな事でも聞きやしょうから、どうか口外はして下さるな」
 と云いながら懐中より廿五両包を取出し、志丈の前に差置いて、
伴「少《すく》ねえが切餅《きりもち》をたった一ツ取って置いてくんねえ」
志「これは云わない賃かえ薬礼ではないね、宜しい心得た、何《なん》だかこう金が入ると浮気になったようだから、一|杯《ぺい》飲みながら、緩《ゆる》りと昔語《むかしがたり》がしてえのだが、こゝの家《うち》ア陰気だから、これから何処《どこ》かへ行って一杯やろうじゃアねえか」
伴「そいつは宜《よ》かろう、そんなら己《おい》らの馴染の笹屋へ行《ゆ》きやしょう」
 と打連立《うちつれだ》って家《うち》を立出《たちい》で、笹屋へ上り込み、差向いにて酒を酌交《くみかわ》し、
伴「男ばかりじゃア旨くねえから、女を呼びにやろう」
 とお國を呼寄せる。
國「おや旦那、御無沙汰を、よく入《いら》っしゃって、伺《うかゞ》いますればお内儀《かみ》さんは不慮の事がございましたと、定めて御愁傷な事で、私も旦那にちょいとお目に懸りたいと思っておりましたは、内の人の傷も漸《ようや》く治り、近々《きん/\》のうち越後へ向けて今|一度《ひとたび》行《ゆ》きたいと云っておりますから、行った日には貴方にはお目に懸ることが出来ないと思っている所へお使《つかい》で、余《あんま》り嬉しいから飛んで来たんですよ」
伴「お國お連《つれ》の方に何故御挨拶をしないのだ」
國「これはあなた御免遊ばせ」
 と云いながら
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