は私のようなお婆さんだから、どうせ気に入る気遣《きづか》いはない、それよりは笹屋へ行ってお上《あが》りよ」
伴「そりゃア笹屋は料理屋だから何《な》んでもあるが、寝酒《ねざけ》を飲むんだから一寸《ちょいと》海苔《のり》でも焼いて持って来ねえな」
みね「肴はそれでも宜《い》いとした所が、お酌が気に入らないだろうから、笹屋へ行ってお國さんにお酌をしてお貰いよ」
伴「気障《きざ》なことを云うな、お國が何《ど》うしたんだ」
みね「おまえは何故そう隠すんだえ、隠さなくってもいゝじゃアないかえ、私が十九《つゞ》や廿《はたち》の事ならばお前の隠すも無理ではないが、こうやってお互いにとる年だから、隠しだてをされては私が誠に心持が悪いからお云いな」
伴「何をよう」
みね「お國さんの事をサ、美《い》い女だとね、年は廿七だそうだが、ちょっと見ると廿二三にしか見えない位な美い娘《こ》で、私も惚々《ほれ/″\》するくらいだから、ありゃア惚れてもいゝよ」
伴「何《なん》だかさっぱり分らねえ、今日昼間馬方の久藏が来《き》やアしなかったか」
みね「いゝえ来やアしないよ」
伴「おれも此の節は拠《よんどこ》ろない用で時々|宅《うち》を明けるものだから、お前《めえ》がそう疑ぐるのも尤《もっと》もだが、そんな事を云わないでもいゝじゃアねえか」
みね「そりゃア男の働きだから何をしたっていゝが、お前のためだから云うのだよ、彼《あ》の女の亭主は双刀《りゃんこ》さんで、其の亭主の為にあゝやっているんだそうだから、亭主に知れると大変だから、私も案じられらアね、お前は四月の二日から彼の女に係《かゝ》り[#「係《かゝ》り」は底本では「係《かゝり》り」]合っていながら、これッぱかりも私に云わないのは酷《ひど》いよ、そいっておしまいなねえ」
伴「そう知っていちゃア本当に困るなア、あれは己が悪かった、面目ねえ、堪忍してくれ、おれだってお前《めえ》に何か序《つい》でがあったら云おうと思っていたが、改まってさてこういう色が出来たとも云いにくいものだから、つい黙っていた、おれも随分道楽をした人間だから、そう欺《だま》されて金を奪《と》られるような心配はねえ大丈夫だ」
みね「そうサ初めての時三分やって、其の次に二両、それから三両と五両二度にやって、二十両一ぺんにやった事があったねえ」
伴「いろんな事を知っていやアがる、昼間久藏が来たん
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