出たり出たり引込んだり、恰《まる》で鵜《う》の水呑《みずのみ》/\」
と噪《さわ》ぎどよめいている処《ところ》へ下女のお米|出《い》で来《きた》り
「嬢様から一|献《こん》申し上げますが何もございません、真《ほん》の田舎料理でございますが御緩《ごゆる》りと召上り相変らず貴方《あなた》の御冗談を伺《うかゞ》いたいと仰《おっ》しゃいます」
と酒肴《さけさかな》を出《い》だせば、
志「何《ど》うも恐入りましたな、へい是はお吸物誠に有難うございます、先刻《さっき》から冷酒《れいしゅ》は持参致しておりまするが、お燗酒《かんしゅ》は又格別、有難うございます、何卒《どうぞ》嬢様にも入《いら》っしゃるように今日は梅じゃアない実はお嬢様を、いやなに」
米「ホヽヽヽ只今左様申し上げましたが、お連《つれ》のお方は御存じがないものですから間が悪いと仰しゃいますから、それならお止《よ》し遊ばせと申し上げた処《ところ》が、それでも往《い》って見たいと仰しゃいますの」
志「いや、此《これ》は僕の真《しん》の知己《ちかづき》にて、竹馬の友と申しても宜《よろ》しい位なもので、御遠慮には及びませぬ、何卒《どうぞ》ちょっと嬢様にお目にかゝりたくって参りました」
と云えば、お米はやがて嬢様を伴い来《きた》る。嬢様のお露様は恥かしげにお米の後《うしろ》に坐って、口の中《うち》にて
「志丈さん入《いら》っしゃいまし」
と云ったぎりで、お米が此方《こちら》へ来れば此方へ来《きた》り、彼方《あちら》へ行《ゆ》けば彼方へ行き、始終女中の後《うしろ》にばかりくッついて居る。
志「存じながら御無沙汰に相成りまして、何時《いつ》も御無事で、此の人は僕の知己《ちかづき》にて萩原新三郎と申します独身者《ひとりもの》でございますが、お近づきの為《た》め一寸《ちょっと》お盃《さかづき》を頂戴いたさせましょう、おや何だかこれでは御婚礼の三々九度《さかづき》のようでございます」
と少しも間断《たれま》なく取巻きますと、嬢様は恥かしいが又嬉しく、萩原新三郎を横目にじろ/\見ない振《ふり》をしながら見て居ります。と気があれば目も口ほどに物をいうと云う譬《たとえ》の通り、新三郎もお嬢様の艶容《やさすがた》に見惚《みと》れ、魂も天外に飛ぶ計《ばか》りです。そうこうする中《うち》に夕景になり、灯火《あかり》がちら/\点《つ》く時刻と
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