う》二階に寝ていましたが、此の物音を聞き附け、寝衣《ねまき》の儘《まゝ》に階子《はしご》を降り、そっと来て様子を窺《うかゞ》うと、此の体裁《ていたらく》に驚き、慌《あわ》てゝ二階へ上《あが》ったり下へ下りたりしていると、源次郎が飯島に止《とゞ》めを刺したようだから、お國は側へ駈付《かけつ》けて、
國「源さま、貴方《あなた》にお怪我はございませんか」
源次郎は肩息をつきフウ/\とばかりで返事も致しません。
國「あなた黙っていては分りませんよ、お怪我はありませんか」
といわれて源次郎はフウ/\といいながら、
源「怪我はないよ、誰だ、お國さんか」
國「貴方《あなた》のお足から大層血が出ますよ」
源「これは槍で突かれました、手強《てづよ》い奴と思いの外《ほか》なアにわけはなかった、併《しか》し此処《こゝ》に何時迄《いつまで》こうしては居《い》られないから、両人《ふたり》で一緒に何処《いずく》へなりとも落延《おちの》びようから、早く支度をしな」
と云われてお國は成程そうだと急ぎ奥へ駈戻り、手早く身支度をなし、用意の金子や結構な品々を持来《もちきた》り、
國「源さまこの印籠《いんろう》をお提《さ》げなさいよ、この召物《めしもの》を召せ」
と勧められ、源次郎は着物を幾枚も着て、印籠を七つ提げて、大小を六本|※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《さ》し、帯を三本締めるなど大変な騒ぎで、漸々《よう/\》支度が整ったから、お國とともに手を取って忍び出《い》でようとする処《ところ》を、仲働きの女中お竹が、先程より騒々しい物音を聞付け、来て見れば此の有様に驚いて、
「アレ人殺し」
という奴を、源次郎が驚いて、此の声人に聞かれてはと、一刀抜くより飛込んで、デップリ肥《ふと》って居る身体を、肩口から背びらへ掛けて斬付《きりつ》ける。斬られてお竹はキャッと声をあげて其の儘《まゝ》息は絶えました。他《ほか》の女どもゝ驚いて下流しへ這込むやら、又は薪箱《まきばこ》の中へ潜《もぐ》り込むやら騒いでいる中《うち》に、源次郎お國の両人《りょうにん》は此処《こゝ》を忍び出《い》で、何処《いずく》ともなく落ちて行《い》く。後《あと》で源助は奥の騒ぎを聞きつけて、いきなり自分の部屋を飛びだし、拳《こぶし》を振《ふる》って隣家《となり》の塀《へい》を打ち叩き、破れるよ
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