手前手を入れて栓張だけ外すがいゝ」
みね「私ゃいやだよ」
伴「それじゃアいゝや」
と云いながら栓張を外し、戸を引き開けながら、
伴「御免ねえ、旦那え/\夜が明けやしたよ、明るくなりやしたよ、旦那え、おみねや、音も沙汰もねえぜ」
みね「それだからいやだよ」
伴「手前《てめえ》先へ入《へい》れ、手前はこゝの内の勝手をよく知っているじゃアねえか」
みね「怖い時は勝手も何もないよ」
伴「旦那え/\、御免なせえ、夜が明けたのに何怖いことがあるものか、日の恐れがあるものを、なんで幽霊がいるものか、だがおみね世の中に何が怖いッて此の位怖いものア無《ね》えなア」
みね「あゝ、いやだ」
伴藏は呟《つぶや》きながら中仕切《なかじきり》の障子を明けると、真暗《まっくら》で、
伴「旦那え/\、よく寝ていらッしゃる、まだ生体《しょうてえ》なく能《よ》く寝ていらッしゃるから大丈夫だ」
みね「そうかえ、旦那、夜が明けましたから焚《た》きつけましょう」
伴「御免なせえ、私《わっち》が戸を明けやすよ、旦那え/\」
と云いながら床の内を差覗《さしのぞ》き、伴藏はキャッと声を上げ、
「おみねや、己《おら》アもう此の位《くれえ》な怖いもなア見た事はねえ」
とおみねは聞くよりアッと声をあげる。
伴「おゝ手前《てめえ》の声でなお怖くなった」
みね「何《ど》うなっているのだよ」
伴「何うなったの斯《こ》うなったのと、実に何《なん》とも彼《か》とも云いようのねえ怖《こえ》えことだが、これを手前《てめえ》とおれと見たばかりじゃア掛合《かゝりえい》にでもなっちゃア大変《てえへん》だから、白翁堂の爺さんを連れて来て立合《たちえい》をさせよう」
と白翁堂の宅へ参り、
伴「先生/\伴藏でごぜえやす、ちょっとお明けなすって」
白「そんなに叩かなくってもいゝ、寝ちゃアいねえんだ、疾《と》うに眼が覚めている、そんなに叩くと戸が毀《こわ》れらア、どれ/\待っていろ、あゝ痛《い》たゝゝゝ戸を明けたのに己の頭をなぐる奴があるものか」
伴「急いだものだから、つい、御免なせえ、先生ちょっと萩原様の所へ往って下せえ、何うかしましたよ、大変《てえへん》ですよ」
白「何うしたんだ」
伴「何うにも斯うにも、私《わっち》が今おみねと両人《ふたり》でいって見て驚いたんだから、お前《めえ》さん一寸《ちょっと》立合って下さい」
と聞くより勇齋
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