う。此の後《あと》は何《ど》うなりますか、次囘《つぎ》までお預《あずか》り。
十二
伴藏の家《うち》では、幽霊と伴藏と物語をしているうち、女房おみねは戸棚に隠れ、熱さを堪《こら》えて襤褸《ぼろ》を被《かぶ》り、ビッショリ汗をかき、虫の息をころして居るうちに、お米は飯島の娘お露の手を引いて、姿は朦朧《もうろう》として掻消《かきけ》す如く見えなく成りましたから、伴藏は戸棚の戸をドン/\叩き、
伴「おみね、もう出なよ」
みね「まだ居やアしないかえ」
伴「帰《けえ》ってしまった、出ねえ/\」
みね「何《ど》うしたえ」
伴「何うにも斯《こ》うにも己《おれ》が一生懸命に掛合ったから、飲んだ酒も醒《さ》めて仕舞った、己《おら》ア全体《ぜんてい》酒さえのめば、侍《さむれえ》でもなんでも怖《おっ》かなくねえように気が強くなるのだが、幽霊が側へ来たかと思うと、頭から水を打ちかけられるように成って、すっかり酔《よい》も醒め、口もきけなくなった」
みね「私が戸棚で聞いていれば、何《なん》だかお前と幽霊と話をしている声が幽《かす》かに聞えて、本当に怖かったよ」
伴「己《おれ》は幽霊に百両の金を持って来ておくんなせえ、私《わっち》ども夫婦は萩原様のお蔭《かげ》で何《ど》うやら斯《こ》うやら暮しをつけて居ります者ですから、萩原様に万一《もしも》の事が有りましては私共《わたくしども》夫婦は暮し方に困りますから、百両のお金を下さったなら屹度《きっと》お札を剥《はが》しましょうというと、幽霊は明日《あした》の晩お金を持って来ますからお札を剥してくれろ、それに又萩原様の首に掛けていらっしゃる海音如来の御守《おまもり》があっては入る事が出来ないから、どうか工夫をして其のお守を盗み、外《ほか》へ取捨てゝ下さいと云ったは、金無垢《きんむく》で丈《たけ》は四寸二分の如来様だそうだ、己も此の間お開帳の時ちょっと見たが、あの時坊さんが何か云ってたよ、抑《そ》も何《なん》とかいったっけ、あれに違《ちげ》えねえ、何《なん》でも大変な作物《さくもの》だそうだ、あれを盗むんだが、どうだえ」
かね「どうも旨いねえ、運が向いて来たんだよ、其の如来様はどっかへ売れるだろうねえ」
伴「何《ど》うして江戸ではむずかしいから、何所《どこ》か知らない田舎へ持って行って売るのだなア、仮令《たとい》潰《つぶ》しにしても
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