助、主人の前も憚《はゞ》からず大声《おおごえ》を発して怪《け》しからぬ奴、覚えがなければ何《ど》うして胴巻が貴様の文庫の中《うち》に有ったか、それを申せ、何うして胴巻があった」
孝「何うして有りましたか、さっぱり存じません」
飯「只《たゞ》存ぜぬ知らんと云って済むと思うかえ、不埓《ふらち》な奴だ、己《おれ》が是程目を懸けてやるにサ、其の恩義を打忘《うちわす》れ、金子を盗むとは不届《ふとゞき》ものめ、手前ばかりではよもあるまい、外《ほか》に同類があるだろう、さア申訳《もうしわけ》が立たんければ手打にしてしまうから左様心得ろ」
 と云放《いいはな》つ。源助は驚いて、
源「どうかお手打の処《ところ》は御勘弁を願います、へい又何者にか騙《だま》されましたか知れませんから、篤《とく》と源助が取調べ御挨拶を申上げまする迄《まで》お手打の処はお日延《ひのべ》を願いとう存じます」
飯「黙れ源助、さような事を申すと手前まで疑念が懸るぞ、孝助を構い立てすると手前も手打にするから左様心得ろ」
源「これ孝助、お詫《わび》を願わないか」
孝「私《わたくし》は何もお詫をするような不埓をした事はない、殿様にお手打になるのは有難い事だ、家来が殿様のお手に掛って死ぬのは当然《あたりまえ》の事だ、御奉公に来た時から、身体は元より命まで殿様に差上げている気だから、死ぬのは元より覚悟だけれど、是まで殿様の御恩に成った其の御恩を孝助が忘れたと仰しゃった殿様のお言葉、そればかりが冥途《よみじ》の障《さわ》りだ、併《しか》し是も無実の難で致し方がない、後《あと》で其の金を盗んだ奴が出て、あゝ孝助が盗んだのではない、孝助は無実の罪であったという事が分るだろうから、今お手打に成っても構わない、さア殿様スッパリとお願い申します、お手打になさいまし」
 と摩《す》り寄ると、
飯「今は日のあるうち血を見せては穢《けが》れる恐れがあるから、夕景になったら手打にするから、部屋へ参って蟄居《ちっきょ》しておれ、これ源助、孝助を取逃《とりに》がさんように手前に預けたぞ」
源「孝助お詫を願え」
孝「お詫する事はない、お早くお手打を願います」
飯「孝助よく聞け、匹夫《ひっぷ》下郎《げろう》という者は己《おのれ》の悪い事を余所《よそ》にして、主人を怨《うら》み、酷《むご》い分らんと我《が》を張って自《みず》から舌なぞを噛み切り、或《あ
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