われて、源助はもとより人が好《い》いからお國に奸策《わるだくみ》あるとは知らず、部屋へ参りて孝助の文庫を持って参ってお國の前へ差出《さしいだ》すと、お國は文庫の蓋《ふた》を明け、中を検《あらた》める振《ふり》をしてそっと彼《か》のお納戸縮緬の胴巻を袂《たもと》から取出《とりだ》して中へズッと差込んで置いて。
國「呆《あき》れたよ、殿様の大事な品がこゝに入っているんだもの、今に殿様がお帰りの上で目張《めっぱ》りこで皆《みんな》の物を検《あらた》めなければ、私のお預《あずか》りの品が失《なく》なったのだから、私が済まないよ、屹度《きっと》詮議《せんぎ》を致します」
源「へい、人は見かけによらないものでございますねえ」
國「此の文庫を見た事を黙っておいでよ」
源「へい宜《よろ》しゅうございます」
 と文庫を持って立帰《たちかえ》り、元の棚へ上げて置きました。すると八ツ時、今の三時半頃殿様がお帰りになりましたから、玄関まで皆々《みな/\》お出迎いをいたし、殿様は奥へ通りお褥《しとね》の上にお坐りなされたから、いつもならば出来立てのお供《そな》えのようにお國が側から団扇《うちわ》で扇《あお》ぎ立て、ちやほやいうのだが、いつもと違って欝《ふさ》いでいる故、
飯「お國|大分《だいぶ》すまん顔をしているが、気分でも悪いのか、何《ど》うした」
國「殿様|申訳《もうしわけ》のない事が出来ました、昨晩お留守に盗賊《どろぼう》がはいり、金子が百|目《め》紛失《ふんじつ》いたしました、あのお納戸縮緬の胴巻に入れて置いたのを胴巻ぐるみ紛失いたしました、何《なん》でも昨晩の様子で見ると、台所口の障子が明いたようで、外《ほか》は締りは厳重にしてあって、誰も居りませんから、よく検《あらた》めますと、お居間の地袋の中にあるお文庫の錠前が捻切《ねじき》ってありました、それから驚いて毘沙門《びしゃもん》様に願《がん》がけをしたり、占者《うらないしゃ》に見て貰うと、これは内々《うち/\》の者が取ったに違いないと申しましたから、皆《みんな》の文庫や葛籠《つゞら》を検めようと思って居ります」
飯「そんな事をするには及ばない、内々の者に、百両の金を取る程の器量のある者は一人もいない、他《ほか》から這入《はい》った賊《ぞく》であろう」
國「それでも御門の締りは厳重に付けておりますし、只《たゞ》台所口が明いて居たので
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