に飲《の》むと、ゴロ/\/\と喉《のど》へ詰《つ》まつたからウーム、バターリと仰向《あふむけ》さまに顛倒《ひつくりかへ》つて了《しま》ふ。金「アヽおい源八《げんぱち》さん、源八《げんぱち》さん、アヽ死んだ、何《ど》うも此金《このかね》があるんで今迄《いままで》死切《しにき》れずに居《ゐ》たんだナ、金《かね》を腹《はら》ん中《なか》い入《い》れちまつてモウ誰《たれ》にも取られる気遣《きづかひ》がないから安心して死んだのだが何《ど》うも強慾《がうよく》な奴《やつ》もあつたもんだな、是《これ》が所謂《いはゆる》有財餓鬼《うざいがき》てえんだらう、何《なに》しろ此儘《このまゝ》葬《はう》むつて了《しま》ふのは惜《をし》いや、腹《はら》ン中《なか》に五六十|両《りやう》の金子《かね》が這入《はいつ》てる、加之《おまけ》に古金《こきん》だ、何《ど》うして呉《くれ》よう、知つてるのは己《おれ》ばかりだが、ウム、宜《い》い事がある。直《すぐ》に宅《たく》へ帰《かへ》つて羽織《はおり》を引《ひき》かけ差配人《さはいにん》の宅《たく》へやつて来《き》ました。金「エヽ今日《こんち》は。「おや是《これ》は能《よ》うお出《いで》なすつた、金兵衛《きんべゑ》さん今日《けふ》はお休みかい。金「へい、今日《けふ》は休みましてござります、就《つ》きまして差配《さはい》さん少々《せう/\》お願《ねがひ》があつて出ました。「アヽ何《なん》だイ。金「私共《わたしども》の隣家《となり》の源八《げんぱち》と云《い》ふ修業《しゆげふ》に出ます坊《ばう》さんナ。「イヤあの坊《ばう》さんに困つて居《ゐ》るのだよ、店請《たなうけ》があつたんだけれど其店請《そのたなうけ》が何所《どつか》へ逃亡《かけおち》をして了《しま》つたので、今にもアノ坊《ばう》さんに目《め》を瞑《ねむ》られると係合《かゝりあひ》だと思つて誠に案《あん》じて居《ゐ》るのサ。金「夫《それ》が貴方《あなた》、段々《だん/″\》詮索《あら》つて見ますると私《わたし》と少し内縁《ひつかゝり》の様《やう》に思はれます、仮令《たとへ》身寄《みより》でないにもせよ功徳《くどく》の為《ため》に葬式《とむらひ》だけは私《わたし》が引受《ひきう》けて出してやりたいと存《ぞん》じますが、夫《それ》に当人《たうにん》の遺言《ゆゐごん》で是非《ぜひ》火葬《くわさう》にして呉《くれ》ろと申《まう》すことで。「成程《なるほど》、夫《それ》は何《ど》うも御奇特《ごきどく》な事で、お前《まい》が葬式《とむらひ》を出して呉《く》れゝば誠に有難《ありがた》いね、ぢやア何分《なにぶん》お頼《たの》ウ申《まうし》ますよ、今に私《わたし》も行《ゆ》きますが、早桶《はやをけ》や何《なに》かの手当《てあて》は。金「ナニ宜《よろ》しうございます、湯灌《ゆくわん》や何《なに》かもザツと致《いた》しまして、早桶《はやをけ》と云《い》つては高いものですし何《ど》うせ焼《や》いて了《しま》ふもんですから沢庵樽《たくあんだる》か菜漬樽《なづけだる》にでも入《い》れませう。「夫《それ》が宜《よ》からう、ソコでお前《まへ》さんは施主《せしゆ》の事《こと》だから袴《はかま》でも着《つ》けるかい。金「ナニ夜分《よる》の事《こと》でげすから襦袢《じゆばん》をひつくり返して穿《は》きます。「デモ編笠《あみがさ》は被《かぶ》らなければなるまい。金「ナニ三俵《さんだら》ポツチでも被《かぶ》つて摺小木《すりこぎ》でも差《さ》して往《ゆ》きませう。「可笑《をか》しいな、狐《きつね》にでも化《ばか》されたやうで。金「ナニ構《かま》やアしませぬ。「ぢやア何分《なにぶん》頼《たの》むよ。金「へい宜《よろ》しうがす。「お寺《てら》は何所《どこ》だい。金「エヽ麻布《あざぶ》の三軒家《さんげんや》なんで。「何《ど》うも大変《たいへん》に遠いね、まア宜《よ》い、ぢやア其積《そのつもり》で。金「へい畏《かしこま》りました。是《これ》から宅《たく》へ帰《かへ》つて支度《したく》をして居《ゐ》る中《うち》に長家《ながや》の者も追々《おひ/\》悔《くや》みに来《く》る、差配人《さはいにん》は葬式《さうしき》の施主《せしゆ》が出来《でき》たので大《おほ》きに喜び提灯《ちやうちん》を点《つ》けてやつて参《まゐ》り「金兵衛《きんべゑ》さん色々《いろ/\》お骨折《ほねをり》、誠に御苦労様《ごくらうさま》。金「何《ど》ういたしまして、何《ど》うも遠方《ゑんぱう》の処《ところ》を恐入《おそれいり》ます、何《いづ》れも稼業人《かげふにん》ばかりですから成《なる》たけ早く致《いた》して了《しま》ひたいと存《ぞん》じます。「其方《そのはう》が宜《い》い、机や何《なに》か立派《りつぱ》に出来《でき》たね。金「ナニ板の古いのがあり
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