《あ》げるからお喫《た》べ、夫《それ》だけはお見舞《みまひ》かた/″\私《わつし》が御馳走《ごちそう》して上《あ》げるから。源「ハツ/\何《ど》うも御親切《ごしんせつ》に有難《ありがた》う存《ぞん》じます、何卒《どうか》貴方《あなた》お宅《たく》へ帰《かへ》つて下《くだ》さいまし。金「帰《かへ》らんでも宜《い》いからお喫《あが》りな、私《わつし》の見て居《ゐ》る前《めえ》で。源「夫《それ》がいけないので、私《わつし》は子供《こども》の時分《じぶん》から、人の見て居《ゐ》る前《まい》では物は喰《く》はれない性分《しやうぶん》ですから、何卒《どうぞ》帰《かへ》つて下さい、お願ひでございますから。金「あい、ぢやア帰《かへ》るよ、用があつたらお呼びよ、直《すぐ》に来《く》るから。と金兵衛《きんべゑ》は宅《たく》へ帰《かへ》つたが考へた。金「はてな、彼《あ》の坊主《ばうず》は妙《めう》な事を云《い》ふて、人の見て居《ゐ》る前《まい》では物が喰《く》はれないなんて、全体《ぜんたい》アノ坊主《ばうず》は大変《たいへん》に吝《けち》で金《かね》を溜《ため》る奴《やつ》だと云《い》ふ事を聞いて居《ゐ》るが、アヽ云《い》ふ奴《やつ》は屹度《きつと》物《もの》を喰《く》はうとするとボーと火か何《なに》か燃上《もえあが》るに違《ちげ》えねえ、一|番《ばん》見たいもんだな、食物《くひもの》から火《ひ》の燃《もえ》る処《ところ》を、ウム、幸《さいは》ひ壁《かべ》が少し破れてる、斯《か》うやつて火箸《ひばし》で突《つ》ツついて、ブツ、ヤー這出《はひだ》して竹の皮を広《ひろ》げやアがつた、アレ丈《だけ》悉皆《みんな》喰《く》つちまうのか知ら。見て居《ゐ》るとも知らず源八《げんぱち》は餅《もち》を取上《とりあ》げ二ツに割《わつ》て中《なか》の餡《あん》を繰出《くりだ》し、餡《あん》は餡《あん》餅《もち》は餅《もち》と両方《りやうはう》へ積上《つみあ》げまして、突然《とつぜん》懐中《ふところ》へ手《て》を突込《つツこ》み暫《しばら》くムグ/\やつて居《ゐ》たが、ズル/\ツと扱出《こきだ》したは御納戸《おなんど》だか紫《むらさき》だか色気《いろけ》も分《わか》らぬ様《やう》になつた古《ふる》い胴巻《どうまき》やうな物《もの》を取出《とりだ》しクツ/\と扱《こ》くと中《なか》から反古紙《ほごがみ》に包《つつ》んだ塊《かたまり》が出《で》ました。之《これ》を執《とつ》てウームと力任《ちからまか》せに破《やぶ》るとザラ/\/\と出《で》たのが古金《こきん》で彼此《かれこれ》五六十|両《りやう》もあらうかと思《おも》はれる程《ほど》、金「おゝ金子《かね》だ、大層《たいそう》持《も》つて居《ゐ》やアがるナ、もう死ぬと云《い》ふので己《おれ》が見舞《みめえ》に行《い》つてやつたから、金兵衛《きんべゑ》さんに是《これ》だけ残余《あと》はお長家《ながや》の衆《しゆう》へツて、施与《ほどこし》でもするのか知《し》ら、今《いま》茲《こゝ》で己《おれ》が行《い》くと尚《なほ》沢山《たんと》貰《もら》へる訳《わけ》だが。と見て居《ゐ》ると金《かね》を七八《なゝやツつ》づゝ大福餅《だいふくもち》の中《なか》へ入《い》れ上《うへ》から餡《あん》を詰《つ》め餅《もち》で蓋《ふた》をいたしてギユツと握固《にぎりかた》めては口へ頬張《ほゝば》り目《め》を白《しろ》ツ黒《くろ》にして呑込《のみこ》んで居《ゐ》る。金「ア、彼《あれ》を喰《くひ》やアがる、何《ど》うも酷《ひど》い奴《やつ》だナあれ/\。と見て居《ゐ》る中《うち》に忽《たちま》ち五六十|両《りやう》の金子《かね》を鵜呑《うのみ》にしたから堪《たま》らない、悶掻《もがき》※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《まは》つて苦しみ出し。源「ウーンウーン金兵衛《きんべゑ》さん、金兵衛《きんべゑ》さん。金「あい/\今《いま》行《い》くよ、今《いま》行《い》くよ。源「ウーン/\。金「何《ど》うしたい。源「ハツ/\。金「おゝ/\お湯も何《なに》も飜《こぼ》れて大変《たいへん》だ。源「ド何卒《どうぞ》お湯をもう一杯下さい。金「サお喫《あが》り。源「へい有難《ありがた》う。微温湯《ぬるまゆ》だから其儘《そのまゝ》ゴツクリ飲《の》むと、空《から》ツ腹《ぱら》へ五六十|両《りやう》の金子《かね》と餅《もち》が這入《はいつ》たのでげすからゴロ/\/\と込上《こみあ》げて来《き》た。源「ムツ、ムツ。金「オヽ吐《は》くのか吐《は》くなら少しお待ち、サ此飯櫃《このおはち》の蓋《ふた》ン中《なか》へ悉皆《すつかり》吐《は》いてお了《しま》ひ。源「ハツ/\ド何《ど》うぞモウ一杯お湯を…。金「サお上《あが》り。源「へい有難《ありがた》う。グート息《いき》をも継《つ》かず
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