ましたからチヨイと足を打附《うちつ》けて置いたので。「成程《なるほど》、早桶《はやをけ》は大分《だいぶ》宜《い》いのがあつたね。金「ナニ是《これ》は沢庵樽《たくあんだる》で。「おや、山に十の字の焼印《やきいん》があるね、是《これ》は己《おれ》ン所《とこ》の沢庵樽《たくあんだる》ぢやアないか。金「何《なん》だか知れませぬが井戸端《ゐどばた》に水が盛《は》つてあつたのを覆《こぼ》して持《もつ》て来《き》ましたが、ナニ直《ぢき》に明けてお返し申《まうし》ます。「明けて返したつて仕《し》やうがない、冗談《じようだん》云《い》つちやアいけない、ぢやアそろ/\出かけよう。是《これ》から長家《ながや》の者が五六人|付《つ》いて出かけましたが、お寺は貧窮山難渋寺《ひんきゆうさんなんじふじ》と云《い》ふので、本堂《ほんだう》には鴻雁寺《こうがんじ》が二|挺《てう》点《とも》つて居《ゐ》る。金「皆《みな》さん嘸《さぞ》お疲労《くたびれ》でございませう、大《おほ》きに有難《ありがた》う存《ぞん》じました。甲「何《ど》うも可哀《かあい》さうな事をしましたな、私《わたし》も長らく一緒《しよ》に居《を》つたが喰《く》ふ物も喰《く》はずに修業《しゆげふ》して歩き、金子《かね》を蓄《ため》た人ですから少しは貯金《こゝろがけ》がありましたらう。金「いえ何《なに》もありませぬよ、何卒《どうぞ》皆《みな》さん此方《こちら》へお出《いで》なすつてナニ本堂《ほんだう》で莨《たばこ》を喫《の》んだつて構《かま》やアしませぬ。其中《そのうち》に和尚《をしやう》が出て来《く》る。和「ハイ何《ど》うも御愁傷《ごしうしやう》な事で。金「何卒《どうぞ》一ツ何《なん》とでも戒名《かいめう》をお附《つけ》なすつて。此仏《このほとけ》は是々《これ/\》で餅《もち》と金《かね》を一緒に食《く》つて死んだのでげすから、とも申《まう》されませんが、戒名《かいみやう》を見ると「安妄養空信士《あんもうやうくうしんじ》」と致《いた》して置かれたのには金兵衛《きんべゑ》が驚《おどろ》きました。金「成程《なるほど》、是《これ》は面白《おもしろ》うがすな。和「夫《それ》では引導《いんだう》を渡《わた》して上《あ》げよう。グワン/\と鉦《かね》を打鳴《うちなら》し、和「南無喝※[#「口+羅」、第3水準1−15−31]怛那《なむからたんの》、※[#「口+多」、第3水準1−15−2]羅夜耶《とらやや》、南無阿※[#「口+利」、第3水準1−15−4]耶《なむおりや》、婆慮羯諦爍鉢羅耶《ばりよぎやていしふふらや》、菩提薩※[#「足へん+多」、359−2]婆耶《ふちさとばや》。と神咒《しんじゆ》を唱《とな》へ往生集《わうじやうしふ》を朗読《らうどく》して後《のち》に引導《いんどう》を渡《わた》し、焼香《せうかう》も済《す》んで了《しま》ふと。金「何《ど》うも皆《みな》さん遠方《ゑんぽう》の処《ところ》誠に有難《ありがた》う存《ぞん》じました、本来《ほんらい》ならば強飯《おこは》かお酢《すし》でも上《あ》げなければならないんですが、御承知《ごしようち》の通《とほ》りの貧乏葬式《びんばふどむらひ》でげすから、恐入《おそれいり》ましたが何《なに》も差上《さしあ》げませぬ、尤《もつと》も外へ出ますと夜鷹蕎麦《よたかそば》でも何《なん》でもありますから貴所方《あなたがた》のお銭《あし》で御勝手《ごかつて》に召上《めしあが》りまして。甲「何《なん》だ人面白《ひとおもしろ》くもねえ、先《さき》へ出よう/\。「金兵衛《きんべゑ》どんお前《まい》是《これ》から焼場《やきば》へ持《も》つて行《ゆ》くのに独《ひとり》ぢやア困るだらうから己《おれ》が片棒《かたぼう》担《かつ》いでやらうか。金「ナニ宜《よろ》しうがす、私《わたし》が独《ひとり》で脊負《しよつ》て行《ゆ》きます、成《なる》たけ入費《もの》の係《かゝ》らぬ方《はう》が宜《よろ》しうがすから。「宜《い》いかえ。金「エヽ宜《よ》うがすとも。と早桶《はやをけ》を脊負《しよ》ひ焼場鑑札《やきばかんさつ》を貰《もら》つてドン/\焼場《やきば》へ来《き》まして。金「お頼《たの》う申《まう》します。坊「ドーレ。金「何卒《どうぞ》これを。坊「ア、成程《なるほど》、難渋寺《なんじふじ》かへ、宜《よろ》しい、此方《こちら》へ。金「それで此《この》並焼《なみやき》はお幾《いく》らでげす。坊「並焼《なみやき》は一|歩《ぶ》と二百だね。金「ヘヽー何《ど》うでげせう、三|朱《しゆ》位《ぐらゐ》には負《まか》りますまいか。坊「焼場《やきば》へ来《き》て値切《ねぎ》るものもないもんだ、極《きま》つて居《ゐ》るよ。金「ナニ本当《ほんたう》に焼《や》けないでも宜《よろ》しいんで。坊「然《さ》うはいかない、一体《い
前へ
次へ
全5ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング