くに》へ帰《かへ》るより仕方《しかた》がない。と云《い》ふと、お前《まへ》さんのやうな生地《いくぢ》のないものはない、預《あづ》けたものを預《あづ》からないと云《い》はれて、はいと云《い》つて帰《かへ》つて来《く》ると云《い》ふのは、何《ど》ういふ訳《わけ》です、殊《こと》に頭《あたま》へ疵《きず》を付《つ》けられて帰《かへ》つて来《く》るとは、余《あんま》り生地《いくぢ》が無《な》さ過《すぎ》る、そんな生地《いくぢ》のない人と連添《つれそ》つてゐるのは嫌《いや》だ、此子《このこ》はお前《まへ》さんの子《こ》だからお前さんが育てるが宜《い》い、私《わたし》はもつと気丈《きぢやう》な人のところへ縁付《かたづ》くから、といふ薄情《はくじやう》な言《い》ひ分《ぶん》、此女《このをんな》は国《くに》から連《つ》れて来《き》たのではない、江戸《えど》で持《も》つた女《をんな》か知れない、それは判然《はつきり》分《わか》らないが、何《なに》しろ薄情《はくじやう》の女《をんな》だから亭主《ていしゆ》を表《おもて》へ突《つ》き出す。男《をとこ》は怨《うら》めしさうに宅《うち》の方《はう》を睨《にら》んで、泣く/\向《むか》うへ行《ゆ》かうとすると、お父《とツ》つアんエーと云《い》つて女の子が追《お》つ掛《か》けて来《く》るから、どうかお母《つか》さんの処《ところ》へ帰《かへ》つてくれ、お父《とツ》つアんは無《な》いものと思つてくれと言ひ聞かせて、泣きながら帰《かへ》る子の後姿《うしろすがた》を見送り、あゝ口惜《くや》しい、二代目の多助《たすけ》といふ奴《やつ》は恐《おそ》ろしい奴《やつ》だ、親父《おやぢ》に金《かね》を預《あづ》けた事を知つてゐながら、預《あづ》かつた覚《おぼ》えはないと云《い》ふのは酷《ひど》い奴《やつ》だ、塩原《しほばら》の家《いへ》へ草を生《は》やさずに置くべきか、と云《い》つて吾妻橋《あづまばし》からドンブリと身を投げた。さうすると円朝《ゑんてう》さん、その死骸《しがい》が何《ど》ういふ潮時《しほどき》であつたか知らないが、流れ/\て塩原《しほばら》の前《まへ》の桟橋《さんばし》へ着いたさうだ。それを店《みせ》の小僧《こぞう》が見付《みつ》けて、土左衛門《どざゑもん》が着《つ》いてゐます土左衛門《どざゑもん》が着《つ》いてゐますと云《い》つて騒《さわ》ぐ。若い衆《しう》がどれと云《い》つて行《い》つて見ると、どうも先刻《さつき》店《みせ》へ来《き》て、番頭《ばんとう》さんと争《あらそ》ひをして突出《つきだ》された田舎者《ゐなかもの》に似《に》てゐますといふから、どれと云《い》つて番頭《ばんとう》が行《い》つて見ると、成程《なるほど》先刻《さつき》店《みせ》へ来《き》た田舎者《ゐなかもの》の土左衛門《どざゑもん》だから、悪人《あくにん》ながらも宜《よ》い心持《こゝろもち》はしない、身《み》の毛《け》慄立《よだ》つたが、土左衛門《どざゑもん》突出《つきだ》してしまへと云《い》ふので、仕事師《しごとし》が手鍵《てかぎ》を持《も》つて来《き》たり、転子《かるこ》が長棹《ながさを》を持《も》つて来《き》たりして突出《つきだ》すと、また其《そ》の桟橋《さんばし》へ戻《もど》つて来《く》る、幾《いく》ら突放《つツぱな》しても戻《もど》つて来《く》るから、そんなこつてはいけないと云《い》ふので、三|人掛《にんかゝ》つて漸《やうや》く突出《つきだ》したところが、桟橋《さんばし》で車力《しやりき》が二人《ふたり》即死《そくし》してしまひ、仕事師《しごとし》が一人《ひとり》気《き》が違《ちが》つてしまつたと云《い》ふ騒《さわ》ぎ。それから其《そ》れが祟《たゝ》りはしないか/\といふ気病《きや》みで、今《いま》いふ神経病《しんけいびやう》とか何《なん》とか云《い》ふのだらうが、二代目はそれを気病《きや》みにして遂《つひ》に気《き》が違《ちが》つた。それから三代目が嫁《よめ》を貰《もら》つたのは、名前は忘れたが、何《なん》でもお旗本《はたもと》のお嬢様《ぢやうさま》とか何《なん》とかいふことだつた。お旗本《はたもと》のお嬢様《ぢやうさま》が嫁《よめ》に来《く》るやうな身代《しんだい》になつたのだから、たいした身代《しんだい》になつた。すると此《こ》の嫁《よめ》を姉《あね》と番頭《ばんとう》とで虐《いぢ》めたので、嫁《よめ》は辛《つら》くて居《ゐ》られないから、実家《さと》へ帰《かへ》ると、親父《おやぢ》は昔気質《むかしかたぎ》の武士《ぶし》だから、なか/\肯《き》かない、去《さ》られて来《く》るやうな者は手打《てうち》にしてしまふ、仮令《たとひ》どんな事があらうとも、女《をんな》は其《そ》の嫁《か》した家《いへ》を本当《ほんたう》の家《いへ》と
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