《ずる》い奴《やつ》だから、そんなものはお預《あづか》り申《まう》した覚《おぼ》えはござりませぬ、大旦那様《おほだんなさま》お亡《かく》れの時お遺言《ゆゐごん》もございませぬから上《あげ》る事は出来《でき》ない、一|体《たい》お前《まへ》さんは何《なに》を証拠《しようこ》に預《あづ》けたと云《い》ひなさるか、預《あづ》けたものなら証拠《しようこ》が無《な》ければならない。といふ取《と》つても付《つ》けない挨拶《あいさつ》。其時分《そのじぶん》は人間が大様《おほやう》だから、金《かね》を預《あづ》ける通帳《かよひちやう》をこしらへて、一々《いち/\》附《つ》けては置いたが、その帳面《ちやうめん》は多助《たすけ》の方《はう》へ預《あづ》けた儘《まゝ》国《くに》へ帰《かへ》つたのを、番頭《ばんとう》がちよろまかしてしまつたから、何《なに》も証拠《しようこ》はない。さア其人《そのひと》は口惜《くや》しくつて耐《たま》らないから、預《あづ》けたに違《ちが》ひない、多助《たすけ》さんさへゐれば其様《そのやう》なことを云《い》ふ筈《はず》はないのだから、返《かへ》してくれ。と云《い》つても肯《き》かない。決して預《あづ》かつた覚《おぼ》えはない、と云《い》ひ張《は》る。預《あづ》けた預《あづ》からないの争《あらそ》ひになつた処《ところ》が、出入《でい》りの車力《しやりき》や仕事師《しごとし》が多勢《おほぜい》集《あつま》つて来《き》て、此奴《こいつ》は騙取《かたり》に違《ちが》ひないと云《い》ふので、ポカ/\殴《なぐ》つて表《おもて》へ突出《つきだ》したが、証拠《しようこ》がないから表向訴《おもてむきうつた》へることが出来《でき》ない。頭《あたま》へ疵《きず》を付《つ》けられて泣く/\帰《かへ》つたが、国《くに》では田地《でぢ》を買ひ、木材《きざい》を伐《き》り出す約束をして、手金《てきん》まで打つてあるから、今更《いまさら》金《かね》が出来《でき》ないと云《い》つて帰《かへ》ることは出来《でき》ない。昔の人で了簡《れうけん》が狭《せま》いから、途方《とはう》に暮《く》れてすご/\と宅《うち》へ帰《かへ》り、女房《にようばう》に一伍一什《いちぶしじう》を話し、此上《このうへ》は夫婦別《ふうふわか》れをして、七歳《なゝつ》ばかりになる女の子を女房《にようばう》に預《あづ》けて、国《
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