ら、粂どん早まっちゃアいけねえよ、宜うがすか、お内儀さんには、色々|深《ふけ》え思召があるんだから、私《わっし》も大旦那のお若《わけ》え時分、まだ糸鬢奴《いとびんやっこ》の時分から、甲州屋のお店へ出入りをしてえて、お前《めえ》さんとも古い馴染だが、今度来やアがった番頭ね、彼奴《あいつ》が悪い奴なんだ、いろ/\胡麻を摺《す》りやアがって仕様がねえからお内儀さんも心配をしていらっしゃるんだが、ねえ粂どん」
 粂「ヘエ、承知いたしました」
 鳶「でね、何《なん》にもいわず、少し兄の方に用事が出来ましたからお暇《いとま》を願います、長々|御厄介《ごやっけえ》になりました、と斯《こ》ういって廉《かど》をいわずにお暇《ひま》を取っちまう方が好《い》い、いろ/\くど/\しく詫《わび》なんぞを仕ちゃア可《い》けねえよ」
 粂「ヘエ、畏《かしこま》りました、何うも誠に面目次第もござりませぬ」
 とおろ/\泣きながら、粂之助が帰りまして、
 粂「ヘエ、只今」
 内儀「あい粂か、此方《こっち》へお這入り、好いよ遠慮をしないでも………先刻《さっき》、鳶頭が来たから四方山《よもやま》の話をして置いたが、何うだい
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