能《よ》くお前の胸に落ち入ったかい、何も是《こ》れという越度《おちど》の無いお前に暇を出すといったら、如何《いか》にも酷《ひど》い主人のようにお思いかも知らないが、これはお前の為だよ、お前も小さい時分にいたから、何だか私も子のような心持がして誠に可愛《かわゆ》く思うが、何分世間の口が面倒だから暇を出すのだけれども、又縁があれば一旦|主従《しゅうじゅう》となったのだもの、出入の出来ないことは無いから、まあ/\気を長く、兄《あに》さんの処におとなしくしているが好い、軽はずみな心を出して、こんな淋しいお寺なんぞにいられるものかって、ふいと何処《どこ》かへ姿を隠すような事でもあられると、どんなに案じられるか知れないから、ようく心を落着けて時節を待ってゝ呉れなくちゃア私が困るよ」
 粂「ヘエ、有難うございます、誠に何うも面目次第もございませぬ」
 内儀「さ、早く行くが好い、何時までも此処《こゝ》にいると面倒だから、谷中のお寺へ行ったら能く兄さんのいう事を聴いて、身体を大事にして時節の来るのを待っていなよ」
 粂「ヘエ有難う存じます」
 と袂《たもと》から手拭《てぬぐい》を取出し、涙を拭いながら店
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