へ出て来ると、番頭は粂之助が暇《いとま》になって好い気味だと喜んで居る。
 粂「えゝ、番頭さん、私は唯今お暇《いとま》になりまして谷中の兄の方へ参りますから、何分お店の事をよろしく願います」
 番頭「左様じゃげな、根《ねっ》から些《ちっ》とも知らんかったが、何う云う理由《わけ》で粂之助がお暇になりますかと云うて、私《わし》も色々言葉を尽してお詫をしたが、なか/\お聴き容《い》れがない、お前方が知った事《こっ》ちゃない、此様《こない》に云われるで何うにも仕ようがないじゃて、併《しか》し何うも気の毒な事《こっ》ちゃな、根《ねっ》から、全体|商人《あきんど》はお前の性分に合わぬのじゃから、却《かえっ》て谷中のお寺へ行《ゆ》きなはった方が心が沈着《おちつ》いて宜《い》いやろう」
 粂「ヘエ有難う、何うも長々お世話さまでございました、お店の方も段々忙しくなりますから、人が殖《ふ》えなければならぬ処を少なくなるんですから、何分|宜《よろ》しくお頼み申します、あの定吉《さだきち》どんは何処《どっ》かへ行《ゆ》きましたか」
 番頭「いや今|其処《そこ》に居ったッけ、定吉イ定吉」
 定「おや粂どん、今お
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