悪党とは」
 九「ヘエ誠に面目次第もござえませぬ、お前《めえ》さんの為には現在の弟でありながら、十九の時に邸《やしき》を出て了《しま》いやした、それゆえ粂の顔を知らねえもんだから騙《だまか》しに行ったんです、兄《あに》さん大層まア年が寄って、お顔を見忘れちまいましたよ」
 玄「なに誰じゃ」
 九「誰でもねえ、お前《まえ》さんの弟の三次郎です」
 玄「おゝ、弟の三次郎、成程|然《そ》う云えば、何所《どこ》か見覚えのある顔だ、それが何うして此所《こゝ》へ出て来た」
 九「まア聞いてくだせえ、私《わっち》が上野の三橋側の夜明《よあか》しの茶飯屋のところで、立派な身形《みなり》の新造《しんぞ》が谷中長安寺への道を聞いてるんで、てっきり駈落ものと睨《にら》んで横合から飛び出し、私もね、お前さんが其の長安寺の和尚さんとも知らず、粂之助が私の弟ということも知らねえもんだから、旨い金蔓《かねづる》に有附いたと実ア其の娘を騙《だまか》して[#「騙して」は底本では「駆して」と誤記]引張出《ひっぱりだ》し、穴の稲荷の脇で娘を殺し、巾着ぐるみ有金を引浚《ひっさら》い、死骸は弁天の池ン中へ投《ほう》り込んだのは
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