、然ういう柔弱な身体じゃから、商人《あきんど》に仕ようと思うた私の心尽《こゝろづくし》も水の泡となり、それのみならず誠に愧入《はじい》ったのは此の八十両の金子《かね》じゃ、知っての通りの貧乏寺じゃが幸いにも檀家《だんけ》の者にも用いられ、本堂が大破に及んだ、再建《さいこん》をせにゃなるまい、私《わし》が世話人に成ってやる奮発せいと、萬屋も心配をして呉れて、これ見ろ、まア是だけの金子を集めて、是を資本《もとで》に追々《おい/\》と再建に取掛るつもりでわざ/\源兵衞さんが一昨日《おとつい》持って来たに依って、直《すぐ》手前に仕舞って置けと云うて渡した其の金子を手前が盗出《ぬすみだ》して此所《こゝ》へ持って来るとは何ういう了簡じゃ、此金《これ》がなければ片時も己はあの寺に居《お》られぬという事も、手前|能《よ》う知って居《お》るじゃないか、憎い奴じゃ、同じ早川の家に生れても、私は総領の身の上でありながら出家となり、又手前の兄|三次郎《さんじろう》と云う者は、何ういう因縁か、十一二歳の頃からして盗心《とうしん》があって、一寸《ちょっと》重役の家《うち》へ遊びに行っても、銀の煙管じゃとか、紙入じ
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