粂之助は和尚の従者《とも》で来たのだから今日は耳こじり[#「耳こじり」に欄外に校注、「みじかいわきざし」]を差して居る、兄玄道に引立てられ、拠《よんどころ》なく奥の離座敷へ来るといきなり肩を突かれたからパッタリ畳の処へ伏しました。玄道和尚は開き直って、
 玄「これ粂、手前はまア呆れ返った奴じゃ、これ手前はな、御両親が相果《あいはて》てからと云うものは、私《わし》の手許に置いて丹精をしてやったのじゃないか……女子《おなご》の手もない寺へ引取り、十一の歳《とし》から私が丹精をして、読書《よみかき》から行儀作法に至るまで一通りは仕込んでやったが、何をいうにも借財だらけの寺へ住職をしたのが過《あやま》りで、なか/\然《そ》う何時《いつ》までも手前一人に貢いでやる訳にも往《ゆ》かぬから、不自由を堪《こら》えて御当家へ願い、住みこませると、長の歳月《としつき》御丹精を戴いた御主人様の大恩を忘れ、奉公人の身の上でありながら、御主人様の令嬢と不義いたずらをするとは、何と云う心得違の事じゃ、それで手前は武士の胤《たね》と云われるか、私も手前も、土井大炊頭《どいおおいのかみ》の家来|早川三左衞門《はやかわ
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