お嬢|様《さま》がこっちゃから声を掛けて粂之助やないかというと、はい私《わたくし》でございますと低声《こゞえ》でいいましたわい、まア粂之助よう来ておくれた、はい漸《ようよ》うの事で忍んで参りました、お前に逢いとうて逢いとうてどうもならぬであった、私《わたい》も逢いとうてならぬから、漸うの思いで参りました、私《わたい》もそう長う寺に辛抱しては居られまへぬ、あんたはんも私《わたい》のような者でも本当に思うて下《くだ》はるなら、寧《いっ》そ手に手を取って此所《こゝ》を逃げまひょう、そうしてあんたと二人で夫婦になって、深山《みやま》の奥なりと行《い》んで暮したいが、それに就いても切《せめ》て金子《かね》の五六十両も持ってお出でやというと、おゝ左様《さよ》か、そんなら屹度《きっと》明日《あす》の晩持って行《い》ぬという事を確かに聞いた」
 鳶「へえ、それから」
 番「どうも変やと思うていると、あんたお嬢|様《さん》が莫大のお金を持《と》って逃げやはった、それ故何うも私《わたい》の思うには粂之助がお嬢|様《さま》を殺して金子《かね》を取って、其の死骸を池ン中へ投《ほう》り込んだに違いないと斯《こ》
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