此方《こっち》へ来なさい、何うもお内儀さんの思召《おぼしめし》を考えて見るとお気の毒で何うもならぬ、ならぬが当家《うち》のお嬢|様《さん》を殺したのは誰じゃという事は大概お前も感付いておるじゃろうな」
 鳶「いゝえ、些《ちっ》とも知りやせぬよ、何だか物取だろうってえ評判なんで」
 番「いゝや物取ではない、何でも是は粂之助の仕業《しわざ》に相違ないという私《わたい》の考《かんがえ》だ」
 鳶「ハ、飛んでもねえ事をいいますね、其様《そん》なお前《めえ》さん……ナなんぼ粂どんが憎いたって、無暗《むやみ》に人殺《ひとごろし》に落したりなんかして、どうしてお前《まえ》さん粂どんは其様な悪い事をするような人じゃアねえ」
 番「いやそれはいかぬ、お内儀《いえ》はん斯《こ》ういう最中で争論《いさかい》をしては済みまへんが、一寸《ちょっと》これに就《つ》いておはなしがあるんでおす、一昨夜《おとつい》私《わたい》が一寸用場へ参りまして用を達《た》してから、手を洗うていると、ほんのりと星光《ほしあかり》で人影が見えるで、はてナと思うて斯う透《すか》して見ておると、垣根の外へ廻って来たのが粂之助でおす、すると
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