誠に有難う、万事お前のお蔭で行届きました、が斯うなるのも皆《みん》な因縁事と諦めて居ますから、私は哀しくも何ともありませぬよ」
 鳶「いえ、何《ど》うも御気象な事で、まアどうもお嬢|様《さま》がお小さい時分、確か七歳《なゝつ》のお祝の時、私《わっし》がお供を致しまして、鎮守様から浅草の観音様へ参《めえ》りましたが、いまだに能く覚えております、往来の者が皆《みんな》振返って見て、まアどうも玉子を剥《む》いたような綺麗なお嬢|様《さん》だ、可愛らしいお児《こ》だって誰でも誉めねえものは無《ね》えくれえでげしたが、幼少《ちい》せい時分からのお馴染ゆえ、此の頃になってお嬢|様《さん》が高慢なことを仰しゃいましても、あなた其様《そん》な事をいったッていけませぬ、わたしの膝の上で小便をした事がありますぜてえと、あら鳶頭幼少せい時分の事をいっちゃア厭だよなんて、真紅《まっか》におなりでしたが、何とも申そうようはござえませぬ」
 内儀「はい、お前も久しい馴染ゆえお線香でも上げてやっておくれ」
 鳶「へえ、有難う………えゝ番頭さん、誠に何うも飛んでもねえ事で」
 番頭「いや鳶頭大きに御苦労であった、まア
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