うち》二反だけ別機《べつばた》であったのですから、もう外《ほか》にはござりませぬ。それでは仕方がない、縁がなかったのだろう。と諦めてしまうと、時|経《た》ってから不意と田舎などから、自分が買いたいと思った品とそっくりな反物を貰う事などがある。又お馴染《なじみ》の芸者でも、生憎《あいにく》買おうと思った晩外にお約束でもあれば逢う事は出来ませぬ。又|金子《かね》を沢山|懐中《ふところ》に入れて芝居を観ようと思って行っても、爪も立たないほどの大入《おおいり》で、這入《はい》り所《どころ》がなければ観る事は出来ませぬ。だから縁の無い事は金尽にも力尽にもいかぬもので、ましてや夫婦の縁などと来ては尚更《なおさら》重い事で、人間の了簡で自由に出来るものではござりませぬ。
 えゝ浅草の三筋町――俗に桟町《さんまち》という所に、御維新《ごいっしん》前まで甲州屋と申す紙店《かみや》がござりました。主人《あるじ》は先年みまかりまして、お杉という後家が家督《あと》を踏まえて居《お》る。お嬢さんは今年十七になって、名をお梅と云って、近所では評判の別嬪《べっぴん》でござります。番頭、手代、小僧、下女、下男等|数多
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