左様ならちょいと表まで顔を貸してお貰い申したいもので」
粂「ヘエ………あの生憎《あいにく》兄が居ませぬで、何うも家《うち》を空《から》にして出る訳には参りませぬから、若《も》し何《なん》ぞ御用がおあんなさるなら庫裏《くり》の方へお上《あが》んなすって」
男「左様でげすか、じゃア御免なせえまし」
粂「さ、何卒《どうぞ》此方《こちら》へ」
男「へい」
紺足袋の塵埃《ほこり》を払って上へ昇《あが》る。粂之助は渋茶と共に有合《ありあい》の乾菓子《ひがし》か何かをそれへ出す。
男「いえ、もうお構いなせえますな、へい有難う、え、貴方《あなた》にはお初にお目にかゝりますが、私《わっち》は千駄木《せんだぎ》の植木屋|九兵衞《くへえ》という者でございまして」
粂「へえへえ」
九「実ア其の、昨夜《ゆうべ》、お嬢|様《さん》が突然《だしぬけ》に私《わっち》ん処へおいでなすったんで」
粂「え、嬢さんと仰しゃるのは……………」
九「へえ鳥越桟町《とりこえさんまち》の甲州屋のお嬢さんで」
粂「へえー、何ういう理由《わけ》で貴方の処へお嬢|様《さん》が……」
九「いや、これは解りますめえ、斯
前へ
次へ
全56ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング