たことでござります。
 彼《か》の浅草三筋町の甲州屋の娘お梅が、粂之助の後《あと》を慕って家出をいたす。何程《なんぼ》年が行かぬとは申しながら、実に無分別極まった訳でござります。左様な事とは毫《すこ》しも知らぬ粂之助が、丁度お梅が家出をした其の翌朝《よくあさ》のこと、兄の玄道《げんどう》が谷中の青雲寺まで法要があって出かけた留守、竹箒を持って頻《しき》りに庭を掃いていると、表からずっと這入って来た男は年頃三十二三ぐらいで、色の浅黒い鼻筋の通ったちょっと青髯《あおひげ》の生えた、口許《くちもと》の締った、利口そうな顔附をして居ますけれども、形姿《なり》を見ると極《ごく》不粋《ぶすい》な拵《こしら》えで、艾草縞《もぐさじま》の単衣《ひとえ》に紺の一本独鈷《いっぽんどっこ》の帯を締め、にこ/\笑いながら、
 男「え、御免なさいまし」
 粂「はい、お出でなさい」
 男「えゝ、長安寺というのは此方《こちら》ですか」
 粂「ヘエ、左様でございます」
 男「あの此方に粂之助さんというお方がおいででござりますか」
 粂「ヘエ、粂之助は私《わたくし》でございますが…」
 男「ア左様でげすか、是は何うも…
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