ぜ」
爺「あなた、これは一分銀で、お釣はござりませぬが」
男「なに釣は要らねえ、お前《めえ》にやっちまわア」
爺「それは何うも有難う存じます、左様なら夜《よ》が更けて居りますから、お気を附けあそばして」
男「なに大丈夫《でえじょうぶ》だ、己が附いてるから」
と怪しの男がお梅を連れて、不忍弁天《しのばずべんてん》の池の辺《ほとり》までかゝって参りました。
二
えゝ引続《ひきつゞき》のお梅粂之助のお話。何ういう理由《わけ》か女子《おんな》の名を先に云って男子《おとこ》の名を後《あと》で呼ぶ。お花半七とか、お染久松とか、夕霧伊左衞門とかいうような訳で、実に可笑《おか》しいものでござります。さて日本も嘉永《かえい》の五年あたりは、まだ世の中が開《ひら》けませぬから、神信心《かみしんじん》に凝《こ》るとか、易占《うらない》に見て貰うとかいうような人が多かったものでござります。丁度嘉永の六年に亜米利加船《あめりかぶね》が日本へ渡来をいたしてから、諸藩共に鎖国攘夷などという事を称え出し、そろ/\ごたつきはじめましたが、町家《ちょうか》では些《ちっ》とも気が附かずに居っ
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