染の人に別れるのは辛《つれ》えもんだね、何《ど》うかまア成るたけ煩らわねえように気い付けて、好《よ》いかね」
 粂「有難う」
 娘のお梅に逢いたいは山々だが、お内儀さんのお言葉添えもあるから、その儘|暇《いとま》を取って、これから谷中の長安寺へ参り、いまに好《い》い便りがあるだろうと待って居りました。此方《こちら》はお梅、あれきり何の便りもないが、もしや粂之助の了簡が変りはしないかと、娘心にいろ/\と思い計り、耐《こら》え兼ねたものか、ある夜《よ》二歩金《にぶきん》で五十両ほどを窃《ぬす》み出して懐中いたし、お高祖頭巾《こそずきん》を被《かむ》り、庭下駄を履いたなりで家を抜け出し、上野の三橋《さんはし》の側まで来ると、夜明《よあか》しの茶飯屋が出ていたから、お梅はそれへ来て、
 梅「御免なさいまし」
 爺「ヘエおいでなさいまし、此方《こちら》へお掛けなさいまして」
 梅「はい、あの谷中の方へは何う参ったら宜《よろ》しゅうございましょう」
 爺「えゝ谷中は何方《どちら》までお出でなさるんですい」
 梅「あの長安寺と申す寺でございますがね」
 爺「えゝ仰願寺[#「仰願寺」に欄外に校注、「小
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