へ、梯子《はしご》が危のうがすよ、おいお民《たみ》、粂どんに上げるんだから好《い》い茶を入れなよ、なに、何か茶うけがあるだろう、羊羹《ようかん》があった筈だ、あれを切んなよ、チョッ不精な奴だな、折《おり》の葢《ふた》の上で切れるもんか、爼板《まないた》を持って来なくっちゃアいかねえ、厚く切んなよ、薄っぺらに切ると旨くねえから、己《おれ》が持って来いてったら直に持って来な、宜《い》いか、話の真最中《まっさいちゅう》はんまな時分に持って来ちゃアいけねえぜ」
 トン/\/\と梯子を上《あが》って、
 鳶「へ、今日《こんち》は」
 粂「何《な》んだかね鳶頭、お内儀《かみ》さんが、鳶頭の処へ行《ゆ》きさえすれば解るから、行って来いと仰しゃいましたから参りました」
 鳶「それは何《ど》うもお忙がしい処をお呼び立て申して済みませんね、粂どん実は斯《こ》ういう話だ、今朝ねお内儀さんから私へお人だ、何だろうと思って直《すぐ》に出掛けてってお目にかゝると、奥の六畳へ通して長々と昔噺が始まったんだ、鳶頭お前がまだ年の行《ゆ》かねえ時分から当家《うち》へ出入《でいり》をするねと仰しゃるから、左様でござえます、長《なげ》え間色々お世話になりますんで、なに其様《そん》な事は何うでも宜《い》いが、旦那が死んで今年で四年になるし、私も段々年を取るし、お梅ももう十七になる、来年は歳廻りが良《い》いから何様《どん》な者でも聟を取ったらよかろうと話をすると、いつでも娘が厭《いや》がる、他人様《ひとさま》から、斯ういう良《よ》い聟がありますと申込んでも厭がるもんだから、他人《ひと》が色々な事を云って困る、妙齢《としごろ》の娘が聟を取るのを厭がるには、何か理由《わけ》があるんだろう、なにそれは店の手代に粂之助という好《い》い男があるから事に依《よ》ったらあの好い男と仔細《わけ》でもありはしないか、と云いもしまいが、ひょっとして其様なことを云われた日には、世間の口にゃア戸が閉《た》てられねえ、ねえ鳶頭、と斯うお内儀さんがいうのだ、してみると何かお前さんとお嬢さまとあやしい情交《なか》にでもなっているように私《わし》の耳には聞えるんだ、宜《よ》うがすかい、それから、誠に何うもそれは御心配なことでというと、お内儀さんの仰しゃるには、粂之助も小さい時分から長く勤めて居たから、能《よ》く気心も知れて居るが、何分今|直
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