ば直《じき》に知れます」
粂「じゃア、今晩兄が帰ったら直《すぐ》に出ます」
九「今晩といってもなるたけ早い方が宜《よ》うがすよ」
粂「ヘエ日暮までにはどんな事をしても屹度《きっと》参ります」
九「じゃア其の積《つもり》で何分お頼み申します」
粂「ヘイ宜しゅうございます」
九「左様なら」
プイと表へ出て了《しま》う。其の跡で粂之助が、無分別にも不図《ふと》悪心を起し、己《おのれ》が預りの金子八十両を窃《ぬす》み出し、此方《こなた》へ出て見ると今の男が証拠に置いて行ったものか、予《かね》て見覚えあるお梅の金巾着《かねぎんちゃく》が其処《そこ》に抛《ほう》り出してあった、取上げて見ると中に金子が三両ばかり這入っている。
粂「はてな、是はあの人が置いて行ったのか知ら、ア、そう/\、これを置いて行《ゆ》くからは此《こ》ん中へ八十両の金子《かね》を入れて来いという謎かも知れない」
と右の女夫巾着[#「女夫巾着」に欄外に校注、「せなかあわせにくッついている巾著」]《めおとぎんちゃく》の中へ金子《かね》を入れ、確《しっ》かり懐に仕舞って、そろ/\出かけようかと思っている処へ兄の玄道が帰って参り、それより入替り立代り客が来るので、何分出る事が出来ませぬ。
お話は二つに分れまして鳥越桟町の甲州屋方では大騒ぎ、昨夜《ゆうべ》娘のお梅が家出をいたした切りかいくれ行方が解りませぬから、家内中《うちじゅう》の心配大方ならず、お鬮《みくじ》を取るやら、卜筮《うらない》に占《み》てもらうやら、大変な騒ぎをして居る処へ、不忍弁天の池に、十六七の娘の死体が打込んであるという噂を聞込んで来て、知らせた者があるから、母親《おふくろ》は仰天して取るものも取《とり》あえず来て見ると、お梅に相違ないから早々人を以《もっ》て御検視を願い、段々死体を調べて見ると、縊《くび》り殺して池の中へ投込んだものらしく、殊《こと》には持出した五十両の金子《きんす》が懐にないから、おおかた物取《ものどり》であろうと、事が極って検視済の上死骸を引取り、漸《ようや》く日暮方に死骸を棺桶へ収めることになった。処へ鳶頭《かしら》が来まして、
鳶「ヘエ唯今、あの何《なん》でげす、八丁堀さんと、それから一番遠いのが麻布《あざぶ》の御親類でげすが、それ/″\皆《みんな》子分を出してお知らせ申しました」
番頭「あ、それは
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